妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)は、王代物(おうだいもの)、つまり奈良・平安時代の朝廷や公卿などの世界を描いた物語です。
物語の後半は、クーデーターのために利用されるヒロインお三輪の哀れな純愛です。
その前の日本版ロミオとジュリエットとも言われる大序・一段目・二段目まではこちらをご覧ください。
『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』山の段・川場あらすじ:大序・一段目・二段目
全体のあらすじ・概要:歌舞伎との違いについてはこちらをご覧ください。
【文楽】妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)あらすじ・概要:歌舞伎との違い
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目次
文楽『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』四段目あらすじ:お三輪と苧環(おだまき)伝説
お三輪を中心とした「杉酒屋、道行、御殿」は歌舞伎でも人気があります。
苧環をもつお三輪の姿が絵になるのと、単体の舞踊劇としても成り立つので、坂東玉三郎さんもたびたび演じていましたね。
ウブな町娘のお三輪が、恋人の企てに巻き込まれて犠牲になっていきます。
【主な登場人物】
- お三輪(おみわ)=杉酒屋の娘
- 求女(もとめ)=鎌足の息子の淡海(たんかい)
- 橘姫(たちばなひめ)=入鹿の妹
- 鱶七(ふかしち)=鎌足の家来
鎌足の息子、淡海(たんかい)は、求女(もとめ)と名乗り、烏帽子織職人(えぼしおりしょくにん)として街なかの家に隠れ住んでいました。
その家はお三輪の実家、酒屋「杉酒屋」の前。若い二人は恋仲になります。
しかし、求女の目的は蘇我入鹿(そがのいるか)の打倒です。そのために、入鹿の妹の橘姫に近づき、すでに恋仲になっています。
文楽『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』四段目あらすじ杉酒屋~道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)
三輪の里の杉酒屋では、近所の人達が集まり七夕恒例の井戸掃除をにぎやかにしています。
酒屋の娘のお三輪は、裕福な商家の娘らしくぜいたくな作りの振袖すがたで登場します。寺子屋の草紙を手に持っていることから、まだ幼い世間知らずであることがわかります。
そこへ現れるなぞめいた求馬(もとめ)。
酒屋の娘のお三輪といい仲にになっています。
入鹿打倒という志をもちながらも恋人の橘姫とは早々会えず、近くにいたちょっとかわいい娘に手を出したというところでしょうか。
ところがお三輪はウブなだけに純愛一直線です。
酒屋の神棚には、二人がこれからも仲良くしていられるようにお三輪が願いを込めた紅白の苧環(おだまき)がお供えしてあります。
お三輪は求女に赤い苧環を渡し、自分は白い苧環を持ちます。
この小道具があとで効いてきます。
ところがそこへ求女の恋人の橘姫(たちばなひめ)が登場。なんと橘姫は蘇我入鹿の妹です。
あんな悪辣な兄にこのような美女が妹というのがよくわかりませんが、とにかく二人は相思相愛。
しかし、一方で求女はお三輪とも恋仲になっている。
求女にとって大事なのは橘姫。出ていく橘姫の着物にとっさに赤い苧環の糸を結びつけます。
橘姫のあとを追えば、入鹿の館までたどり着けるということです。
出ていく求女の着物に、お三輪も白い苧環の糸を結び付けて後を追います。
場面は有名な「道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)」に移ります。
夜の神社で橘姫vsお三輪で三角関係の炎がもえあがります。道中の恋心や嫉妬が踊りなどで表現されます。
文楽『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』四段目あらすじ御殿(ごてん)
場面は橘姫の兄である入鹿の御殿に転換します。
そこには鎌足の使い鱶七(ふかしち)という豪快な男が一足先に来ています。入鹿の家臣になるという鎌足の手紙をもってきたのですが、信用する入鹿ではありません。
人質としてとらえられ、欲求不満のたまっている召使のたちから色仕掛けに応えず、酒を飲んで寝ころんでいます。
この辺り、下ネタまんさい(;’∀’)
橘姫は入鹿の妹、ということは蝦夷子の娘。鎌足の息子の淡海である求女とは親が敵同士ということになります。
つまりこの二人もロミオとジュリエットのような関係になるんですね。橘姫は求女の説得により、兄を裏切る決意をします。
求女って忠義のためには女を道具のように扱うひどい男ですね。
苧環の糸を求女の袖に結び付けてお三輪も入鹿の御殿にやってきます。
田舎娘のお三輪は、たいくつしきった召使の女たちにさんざんからかわれ、いびられます( ノД`)
恥をかかされ、求女にも会わせてもらえず、怒りにふるえるお三輪。
鱶七はそんなお三輪にいきなり切りつけます!
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これは二段目で出てきた入鹿の弱点の伏線がここで回収されます。
『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』大序・一段目・二段目
お三輪は鱶七から、疑念と嫉妬に狂った女の血と「爪黒の牝鹿の血」とを笛に注いで吹くと、入鹿が正気を失うことになっていることを聞かされます。
今のまさにお三輪こそ、疑念と嫉妬に狂った女にうってつけというわけです。
お三輪は自分の血が愛する求馬の役に立つことを喜び、武家の夫人とおだてられて満足して息絶えます。
そして淡海は鎌足とともに入鹿を倒して悲劇のヒロインお三輪ちゃんがむくわれた、という話。
五段目はすべておさまり、入鹿は倒され、帝は復活し、雛鳥と久我助も弔われ、関係者はねぎらわれます。
お三輪ちゃん、切なすぎる(T^T)