【文楽】妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん):かんたんあらすじと解説:見どころ

王代物(おうだいもの)、つまり奈良・平安時代の朝廷や公卿などの世界を描いた物語です。大化の改新の藤原鎌足(ふじわらのかまたり)の蘇我入鹿(そがのいるか)討伐をベースにした物語です。

ザックリ言うと

この演目は大きく2つに分かれています。

前半(大序~三段目)は、日本版ロミオとジュリエットともいわれ、敵対しあう2つの名家に生まれた息子・久我之助(ごがのすけ)と娘・雛鳥(ひなどり)が恋に落ちます。両家は入鹿(いるか)からそれぞれ無理難題をふっかけられ、お互いの家の子どもの命を助けようと自分の子どもの命を犠牲にします。

後半(四段目~五段目)は、商家の娘・お三輪がヒロイン。恋人・求馬(もとめ)を追って迷い込んだ入鹿の館でさんざんひどい目に会い、館にいあわせた男・鱶七(ふなしち)に切られ、その血が入鹿を倒すのに役立つと知らされ、満足して死んでいきます。

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『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』の意味や概要

奈良の大和地方に伝わる三輪山伝説などを取り合わせ、謡曲や浄瑠璃の作品のオマージュが感じられるスケールの大きなロマンティックな作品です。

妹背(いもせ)は、愛し合う男女、夫婦のことを指す古い言葉です。
妹が女で、背が男になります。

そして妹背山(いもせやま)は、男女のペアに見える実在の山のことで、妹山と背山を合わせて妹背山と呼びます。

 『庭訓(ていきん)』というのは、子が親に教える家庭の教訓やしつけのことです。婦女庭訓というのは嫁入り前の女の子のたしなみといったところですね。

全編で五段(五幕)あり、一段目にあたる<大序>はプロローグ部分で、主要な登場人物がつぎつぎと登場して、相関関係や力関係が明らかになります。

二段目(猿沢池、鹿殺し、芝六住家)は内容が暗く、上演は珍しいのですが、2019年5月令和初の東京公演では第一部・第二部にわけて全編上演されて連日満員でした。

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ポスターになっているお三輪ちゃんが出てくるのは四段目

お三輪を中心とした「杉坂屋、道行、御殿」は人気があります。歌舞伎でも人気があり、玉三郎さんもたびたび演じていますね。

さっそくお三輪ちゃんがヒロインの四段目・五段目をご紹介したいのですが、その前に今までのお話を……。





『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』概要・あらすじ(大序~二段目)

天智天皇(てんちてんのう)の時代。帝位を狙う蘇我入鹿(そがのいるか)は勢力を強めていました。

帝は病気のため盲目となってしまい、権勢をふるう悪臣・蘇我蝦夷子(そがのえみじ)と忠臣・藤原鎌足(ふじわらのかまたり)は対立します。
.物語の発端にあたる大序「大内(おおうち)の段」は令和元年に98年ぶりの復活上演されました。.

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一方、帝を守って入鹿と対立する藤原鎌足は入鹿の弱点を突くために必要な「爪黒の牝鹿(つまぐろのめじか)」の血を手に入れます。

また、三種の神器(さんしゅのじんぎ)のひとつ「十握の宝剣(とつかのほうけん)」が入鹿によって奪われていたため、鎌足の息子の淡海(たんかい)はそれを奪い返す機会を狙います。

この後、三段目では全体のタイトル『妹背山婦女庭訓』の名のもとにもなった「三段目・妹山・背山の段」になります。





『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』概要・三段目(山の段)あらすじ:久我之助と雛鳥は日本のロミオとジュリエット

三段目は、日本のロミオとジュリエットともいわれる、悲恋ものです。文楽では「山の段」といわれ、歌舞伎では「川場」と呼ばれています。ここの舞台装置は本当にきれいです。

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主な登場人物は、

  • 大判事清澄(だいはんじきよずみ)
  • 久我之助(こがのすけ)=大判事の一人息子
  • 定高(さだか)=大和国・太宰家の未亡人
  • 雛鳥(ひなどり)=定高の一人娘

吉野川をはさんで紀伊国(きいのくに)と大和国(やまとのくに)があります。

紀伊国は大判事清澄(だいはんじきよずみ)の領地で、背山には一人息子の久我助(こがのすけ)が住み、大和国では太宰小弐(だざいのしょうに)の未亡人・定高(さだか)の領国で、妹山には一人娘雛鳥(ひなどり)が住んでいます。

両家は、代々仲が悪いのですが、子どもたちは春日大社近くの小松原で偶然に出会ってお互いに一目ぼれ♡。それ以来、叶わぬ恋であることも知りひそかに愛し合っています。

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💔. . そして、二人の親には入鹿(いるか)からそれぞれ難題が……!? 久我之助の父・大判事(だいはんじ)には、久我之助を出仕させよ、 雛鳥の母・定高(さだか)には、雛鳥を入内させよ、との命令に二人はビックリ❗️. 大判事と定高は、それぞれの思案を胸に子供の元に向かうんだ。 . 久我之助と雛鳥の恋はどうなっちゃうの⁈. . #国立劇場 #くろごちゃん #妹背山婦女庭訓 #吉田和生 #吉田玉男 #吉田文司 #吉田玉助 #吉田簑紫郎 #大化の改新 #乙巳の変 #大和 #奈良 #ロミオとジュリエット #妹背山 #三輪山 #四季 #桜 #文楽 #文楽みたよ #伝統芸能 #bunraku #puppet #puppetshow #nationaltheatre #hanzomon #chiyodaku #tokyo #japan #cooljapan

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舞台の中央から客席へむかって中央に吉野川が流れ、上手(舞台右側)に久我助の館、下手(舞台左側)に雛鳥の館が設けられるというスケールが大きい効果的な舞台機構となっています。解説によると近松半二の対位法によるものだそうです。

この段では、物語を語る太夫と三味線が座っている床(ゆか)というサブステージも舞台の上手下手に設置されて、両側から掛け合いで語られます。吉野は桜の名所。川の両岸から枝をのばして桜が満開です。

 

前半は、吉野川をへだてての若い二人のせつないラブシーンが涙を誘います( ノД`)。そこへ両親がそれぞれ入鹿から「久我助を出仕させよ」「雛鳥を妾(めかけ)に入内(じゅだい)させよ」と命令を受けて帰ってきます。

 

中間は、向後のそれぞれの館で事件が展開していき、その間、一方の館の障子が閉められています。

大判事は入鹿が久我助を出仕させるのは、久我助が仕えていた采女局(うねめのつぼね)の在所を追求するためと察しています。久我助も拷問されて白状してしまうぐらいならその前に死んだ方がいいと、切腹を決意します。

定高も久我助に操(みさお)を立てる娘を理解し、清い身体のままで死ねるように娘の首をはねます。

 

せめて相手の家と子どもの命は助けようとしたことでしたが、結局は報われませんでした。両家は長年にわたって不和だけど、不和な仲ほど義理深いという日本人特有の精神構造が展開します。

子どもたちの死を通じて親たちは和解し、死に化粧をほどこした雛鳥の首を瀕死の久我助の元へ嫁入りさせます。

最後に雛道具とともに、雛鳥の首が花の散る川をわたってゆくところはしんみりと美しく、切なさに涙が止まりません。





『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』概要・あらすじ(四段目・五段目)お三輪ちゃんと苧環(おだまき)伝説。

さて、淡海(たんかい)は、求馬(もとめ)と名乗り、烏帽子織職人(えぼしおりしょくにん)のふりをして、三輪の里の酒屋「杉酒屋」の前に住んでいました。

【主な登場人物】

  • お三輪(おみわ)=杉酒屋の娘
  • 求馬(もとめ)=鎌足の息子の淡海(たんかい)
  • 橘姫(たちばなひめ)=入鹿の妹
  • 鱶七(ふかしち)=鎌足の家来

第192回の公演パンフによると、左から鱶七、お三輪、求馬、橘姫。
お三輪は白い苧環(おだまき)、求馬は赤い苧環(おだまき)を持っています。
この小道具があとで効いてきます。

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【杉酒屋(すぎさかや)

三輪の里の杉酒屋では、近所の人達が集まり七夕恒例の井戸掃除をにぎやかにしています。

そこへ現れるなぞめいた求馬(もとめ)。実は酒屋の娘のお三輪と恋人同士。

神棚には二人がこれからも仲良くしていられるように願いを込めた紅白の苧環(おだまき)がお供えしてあります。

【道行(みちゆき)】

お三輪は求馬に赤い苧環を渡し、自分は白い苧環を持ちます。

ところが恋敵の橘姫(たちばなひめ)の登場により、三角関係の炎がもえあがります。

場面は有名な「道行恋苧環(みちゆきこいのおだまき)」に移ります。恋心や嫉妬が踊りなどで表現されます。





【御殿(ごてん)】

場面は入鹿の御殿に転換。

恋敵の橘姫は実は入鹿の妹。求馬(実は鎌足の息子の淡海)とは親が敵同士。つまりロミオとジュリエット。橘姫は求馬にそそのかされて兄を裏切る決意をします。

そこには鎌足の使いの鱶七(ふかしち)という豪快な男が一足先に来ていて、欲求不満のたまっている官女たちから色仕掛けに応えず酒を飲んで寝ころんでいます。

 

この辺り、下ネタまんさい(;’’)

 

苧環の糸を求馬の袖に結び付けてお三輪も入鹿の御殿にやってきます。

田舎娘のお三輪は、たいくつしきった官女たちにさんざんからかわれ、いびられます( ノД`)

恥をかかされ求馬にも会わせてもらえず、怒りにふるえるお三輪。

鱶七はそんなお三輪にいきなり切りつけます!

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はあ?

 

疑念と嫉妬に狂った女の血と、「爪黒の牝鹿の血」とを笛に注いで吹くと、入鹿が正気を失うことになっていることを聞かされます。

 

なんだそりゃ。

 

お三輪は自分の血が愛する求馬の役に立つことを喜び、武家の夫人とおだてられて満足して息絶えます。
そして淡海は鎌足とともに入鹿を倒して悲劇のヒロインお三輪ちゃんがむくわれた、という話。

お三輪、切なすぎる(T^T)





『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』作者の近松半二(ちかまつはんじ)とはどんな人?

近松半二は、今からおよそ300年前の享保10(1725) 年生まれ。
父は浄瑠璃界に関係のある儒学者・穂積以貫(ほづみこれつら)。父について劇場に通ううちに二代目竹田出雲(たけだいずも)に入門。近松門左衛門にあやかり近松という苗字を名乗ったといわれています。

初作『役行者大峯桜(えんのぎょうじゃおおみねざくら)』の合作から、『奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)』『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』、『傾城阿波の鳴門(けいせいあわのなると)』、晩年の『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)』、遺作『伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)』など、文楽や歌舞伎で人気の作品を多く残しています。

『妹背山婦女庭訓』が大阪道頓堀で初演されたのは、明和81771)年です。この時期は人形浄瑠璃の芝居小屋があいついで閉じるなど、興行的にはピークを過ぎていましたが、新作はぞくぞくと生み出されていました。





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