【文楽】心中宵庚申(しんじゅうよいごうしん.)かんたんあらすじ・感想 :上田村・八百屋・道行思ひの短夜

近松門左衛門 「心中宵庚申」は、近松最後の世話物です。一言でいえば「イジワルな養母に離縁を迫られる夫婦が思いつめて心中する話」です。

享保7年(1722年)に起こった実際の心中事件を元にしています。夫ではなく姑に離縁させられることを「姑去り(しゅうとめざり)」といいます。

宵庚申は庚申の日に徹夜する行事。庚申は「かのえさる」とも読み、「去る」と「申」をかけています。




『心中宵庚申』「上田村の段」かんたんあらすじ

平右衛門の家。病床につく平右衛門の介護に姉娘が戻っています。そこへ駕籠(かご)が到着し、中から妹娘のお千代がしょんぼりと登場。

お千代は八百屋伊右衛門の養子半兵衛に嫁いだが、半兵衛が里帰りしている間に姑に離縁を言い渡されされたという。しかもお千代は妊娠中。

お千代が離縁されるのは三度目。最初の夫は放蕩で身代をつぶし、二番目の夫とは死別。お千代のせいではないけれど、外聞が悪いと嘆く姉。

お千代の噂を聞きつけた村人が訪ねてきて俺が嫁に貰ってやるとからかわれる始末です。






そこへ何も知らず里帰りからの帰りに立ち寄った半兵衛。姉につんけんされ困惑していると、お千代がここにいてびっくり。

この半兵衛はもとは武士の子で、八百屋の養子になって15年。いまだに武士としての意識が強く「拙者」とか口走る人間。しかし妻の実家に顔を出すなど夫婦仲は良好で義理固くもあります。

平右衛門は平家物語のうち清盛の心変わりのくだりをお千代に読み上げさせ、半兵衛に対し当てこすりで離縁をなじります。

半兵衛お詫びに切腹しようとしますが、説得されて断念。半兵衛は離縁する気などなくお千代を連れて帰ることに。

そうと決まれば父の病状などお構いなくウキウキするお千代を見て、こういう気遣いのないところが姑に嫌われたのだろうと思う平右衛門。

実家にはもう二度と帰るなと、今生の別れを暗示させる水杯と門火で送り出します。





『心中宵庚申』「八百屋の段」かんたんあらすじ

千代を連れて大阪に連れ戻った半兵衛は、従兄である山城屋にお千代を預け、たまに呼び出されては密会を重ねています。

八百屋の店先では、矢継ぎ早に指図している伊右衛門の女房。分かりやすく意地のわるい頭(かしら)です。

自分の甥ではなく、半兵衛に後を継がせようするなど商売第一。気の利かないお千代をいびり出したくなるのもわかる気がします。

千代からの伝言を聞いていそいそ山城屋に向かおうとする半兵衛。伊右衛門の女房は、すべてお見通してあることを告げて養母をとるか嫁をとるかと離縁をせまります。





近所の信心仲間との食事会に伊右衛門夫婦で呼ばれますが、女房は留守の間にお千代が来たら嫌だと出かけません。

夫である伊右衛門は女房を一応は諭しますが、仲裁するでもなく一足先に出かけます。半兵衛は姑が嫁を離縁すると悪評が立つので、自分がお千代を離縁すると宣言します。

伊右衛門の女房は上機嫌で出かけて行き、半兵衛は刀を整え、訪ねてきたお千代には夫婦心中を持ちかけます。帰宅した伊右衛門の女房の前で離縁状を叩きつけお千代を家から追い出します。

してやったりの伊右衛門の女房。閉じた門の内外で心を通わせる半兵衛とお千代。三者三様です。





『心中宵庚申』「道行思ひの短夜」かんたんあらすじ

生玉神社前の大仏勧進所の門の前を半兵衛は死に場所と決めます。緋毛氈を敷き、お千代にはこれは紅の蓮華であると説明します。

半兵衛は八百屋に来てからずっと辛くて5回以上も死を思いつめていた。

いよいよ死ぬという今夜も武士らしく切腹することに酔っていて、本来は庭にしたかったが夜明け前なので仕方がないなどと、変なこだわりを覗かせます。

まずお千代に念仏を唱えさせ刃を向けますが、お千代はとっさに「待って」といいます。タイミングを逃した半兵衛は命が惜しくなったかとお千代を卑怯者呼ばわりします。

お千代はお腹の子のために回向をしたいといい、二人でまだ見ぬ子の成仏を願うと、半兵衛はためらいなくお千代を刺します。

半兵衛は辞世の句を二首さらさらと短冊に書きつけると、流儀に則り自害して果てます。





『心中宵庚申』らら子的感想:ここがヘンだよ

出てくる人、全部ヘン。まともな人はお千代のお姉さんぐらいでしょうか。

一番悪いのは、いつまでも武士だった過去にとらわれているドリーマー半兵衛。

四方八方に気を遣っているように見せて結局自分が死に場所を探していただけ。養子先へは恩をあだで返し、最後に周りを全部不幸にする。

気持ちは優しいけど主体性がなく流されるままのお千代。

お千代の欠点を知っていながらそれを注意するでもなく、大阪の商家に嫁がせた父・平右衛門。

半兵衛に嫌味をいうぐらいで、婚家に手紙を託すこともなく、水盃までして婚家に帰してしまう。戻るぐらいなら死ねと。もうこれで行き場を失った二人は死ぬしかなくなる。





え、でも本当?本当に死ななきゃいけないの?逃げて逃げて逃げまくれば何とでもなるんじゃないの?お腹に赤ちゃんだっているんでしょ。

半兵衛は元は武士だし、百姓の出とはいえ平家物語がお千代なら、寺子屋でもはじめればいいのでは?

養子先の伊右衛門。商売第一とはいえ、いくらなんでもひどい女房のやりくちを放置。自分は「いい人」ポジションから出てこない。

あれ?商売第一の伊右衛門の女房がいちばん現実的で、ちゃんと生きている人じゃないですか。

誰も幸せにならない結末。後味の悪い、エネルギーを吸い取られるような話でした。思わず「肉食いたい……」と半蔵門駅近くの焼き鳥専門店(やきとり お㐂樂)へ。親子丼でひとごこちつきました。





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