【文楽】心中宵庚申(しんじゅうよいごうしん)かんたんあらすじ・読み方・概要・感想 :上田村・八百屋・道行思ひの短夜

「心中宵庚申(しんじゅうよいごうしん)」は、近松門左衛門最後の世話物です。

一言でいえば「夫婦なのに心中する話」です。きつい養母に離縁を迫られる夫婦が、思いつめて心中します。

出典:令和3年5月文楽公演特設サイト




心中宵庚申かんたんあらすじ:どんな話?

享保7年(1722年)に起こった「姑去り(しゅうとめざり)」による実際の心中事件を元にしています。

夫ではなく姑に離縁させられることを「姑去り(しゅうとめざり)」といいます。

宵庚申(よいごうしん)は庚申(こうしん)の日に徹夜する行事。庚申は「かのえさる」とも読み、「去る」と「申」をかけています。

近松門左衛門の最後の世話物として知られますが、相変わらず冴えたネーミングです。

同じ時期に豊竹座でも、同じ事件を元にした、紀海音(きのかいおん)作『心中二つ腹帯(しんじゅうふたつはらおび)』が、上演されています。

夫婦なのに心中というショッキングさが、よほど世間を騒がせたのでしょうね。

主人公二人の名をとって『お千代半兵衛』の名でも知られています。文楽では長らく上演がされていませんでしたが、昭和7年に復活。

昭和40年に再演されて以来、人気演目となっています。




心中宵庚申「上田村の段」かんたんあらすじ:お千代は夫に恵まれない

平右衛門の家。

病床につく平右衛門の介護に姉娘が戻っています。そこへ駕籠(かご)が到着し、中から妹娘のお千代がしょんぼりと登場。

お千代は八百屋伊右衛門の養子半兵衛に嫁いだが、半兵衛が里帰りしている間に姑に離縁を言い渡されされたという。

しかもお千代は妊娠中。

お千代が離縁されるのは三度目です。最初の夫は放蕩で身代をつぶし、二番目の夫とは死別。お千代のせいではないけれど、外聞が悪いと嘆く姉。

お千代の噂を聞きつけた村人が訪ねてきて、俺が嫁に貰ってやるとからかわれる始末です。

そこへ半兵衛が登場。

半兵衛は実家に里帰りしていたのですが、何も知らずに平右衛門のごきげん伺いに立ち寄ったのです。

喜ばれるかとおもいきや、お千代の姉につんけんされ困惑していると、お千代がここにいてびっくり。





心中宵庚申「上田村の段」かんたんあらすじ:半兵衛は武士の心根が抜けない

この半兵衛はもとは武士の子で、八百屋の養子になって15年。いまだに武士としての意識が強く、つい「拙者」とか口走る人間。

しかし妻の実家に顔を出すなど義理固く、夫婦仲も良好であります。

平右衛門は平家物語のうち、清盛の心変わりのくだりをお千代に読み上げさせます。これは、半兵衛に対し当てこすりで離縁をなじっていること。

半兵衛はお詫びに切腹しようとしますが、説得されて断念。今は八百屋の半兵衛が切腹と言い出すあたり、半兵衛はどこかズレています。

半兵衛は離縁する気などなくお千代を連れて帰ることに。

そうと決まれば父の病状などお構いなくウキウキするお千代です。

お千代を見て、父・平右衛門は、こういう気遣いのないところが姑に嫌われたのだろうと思います。

実家にはもう二度と帰るなと、今生の別れを暗示させる水杯と門火で平右衛門は二人を送り出します。





心中宵庚申「八百屋の段」かんたんあらすじ:きつい養母の伊右衛門の女房

千代を連れて大阪に連れ戻った半兵衛ですが、一緒に暮らすわけにはいきません。

半兵衛の従兄である山城屋にお千代を預けました。お千代からたまに呼び出されては密会を重ねています。

八百屋の店先では、伊右衛門の女房が矢継ぎ早に指図しています。きつい物いいですし、女房の頭(かしら=人形の顔)は、意地悪そうな婆。

しかし、伊右衛門の女房はただ意地悪なだけではなく、商売第一の人。

女房には自分の甥がいますが、家の商売のことを考えて血縁のない半兵衛に後を継がせようしています。

気の利かないお千代をいびり出したくなるのもわかる気がします。

今日も千代からの伝言を聞いて、いそいそ山城屋に向かおうとする半兵衛。

伊右衛門の女房は、すべてお見通してあることを告げます。そのうえで、養母をとるか嫁をとるかと離縁をせまります。




心中宵庚申「八百屋の段」かんたんあらすじ:やさしい養父の伊右衛門

養母がきつい人なら、養父は優しい人なのがお約束。

夫である伊右衛門は信心深いご隠居さんで、女房にもあまり強く出られません。

近所の信心仲間との食事会に伊右衛門夫婦で呼ばれますが、女房は留守の間にお千代が来たら嫌だと言って、出かけようとしません。

伊右衛門は女房を一応は諭します。が、めんどうになったのか、仲裁するでもなく一足先に出かけます。

半兵衛は、姑が嫁を離縁すると悪評が立つので、自分がお千代を離縁すると宣言します。

それなら話が早いと伊右衛門の女房は上機嫌で出かけて行きます。

半兵衛は刀を整え、訪ねてきたお千代には夫婦心中を持ちかけます。

帰宅した伊右衛門の女房の前では、半兵衛は離縁状を叩きつける芝居をうちます。

半兵衛からお千代を家から追い出すことになり、してやったりの伊右衛門の女房。

閉じた門の内と外とで心を通わせる半兵衛とお千代。

三者三様です。





心中宵庚申「道行思ひの短夜」かんたんあらすじ:ポエマー半兵衛

半兵衛は、生玉神社前の大仏勧進所の門の前を死に場所と決めます。緋毛氈を敷き、お千代にはこれは紅の蓮華であると説明します。

半兵衛は八百屋に来てから、ずっと辛くて5回以上も死を思いつめていたと、。

いよいよ死ぬという今夜も、武士らしく切腹することに酔っています。本来は庭にしたかったが、夜明け前なので仕方がないなどと、変なこだわりを覗かせます。

まずお千代に念仏を唱えさせ、刃を向けます、が、お千代はとっさに「待って」といいます。

タイミングを逃した半兵衛は「命が惜しくなったか」と、お千代を卑怯者呼ばわりします。

お千代のお腹には、二人の子が宿っています。お千代は、この子のために回向をしたいといいます。

二人でまだ見ぬ子の成仏を願うと、半兵衛はためらいなくお千代を刺します。

半兵衛は辞世の句を二首さらさらと短冊に書きつけると、流儀に則り自害して果てます。

ポエマー半兵衛、辞世の句を二首も用意してたのね。もしかして夜な夜な切腹の作法も練習もしていたのかしらと、ちょっと呆れます。

武士だったことは忘れて、八百屋の商売に精を出せばよかったのに。





『心中宵庚申』らら子的感想:登場人物みんなヘン

出てくる人、全部ヘン。まともな人はお千代のお姉さんぐらいでしょうか。

一番悪いのは、いつまでも武士だった過去にとらわれている半兵衛。

四方八方に気を遣っているように見せて、半兵衛は自分の死に場所を探していただけです。

養子先へは恩をあだで返し、妻だけでなく自分の子どもを殺し、最後に周りを全部不幸にする。

気持ちは優しいけど主体性がなく、流されるままのお千代。

お千代の欠点を知っていながらそれを注意するでもなく、大阪の商家に嫁がせた父・平右衛門。

訪ねてきた半兵衛に嫌味をいうぐらいで、ここを直せとさとすわけでもないし、婚家に手紙を託すこともない。

水盃までして二人を婚家に帰してしまう。戻るぐらいなら死ねと。もうこれで行き場を失った二人は死ぬしかなくなる。




『心中宵庚申』らら子的感想:本当に死ぬしかないのか?主体的に生きているのは伊右衛門の女房だけ

え、でも本当?本当に死ななきゃいけないの?

逃げて逃げて逃げまくれば何とでもなるんじゃないの?お腹に赤ちゃんだっているんでしょ。

半兵衛は元は武士だし、百姓の出とはいえ平家物語が読めるお千代なら、寺子屋でもはじめればいいのでは?

養子先の伊右衛門。商売第一とはいえ、いくらなんでもひどい女房のやりくちを放置。自分は「いい人」ポジションから出てこない。

と考えると、あれ?

商売第一の伊右衛門の女房がいちばん現実的で、ちゃんと生きている人じゃないですか。

誰も幸せにならない結末。

後味の悪い、エネルギーを吸い取られるような話でした。思わず「肉食いたい……」と半蔵門駅近くの焼き鳥専門店(やきとり お㐂樂)へ。親子丼でひとごこちつきました。





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