心中恋の大和路あらすじ解説~冥途の飛脚~宝塚・文楽・歌舞伎の違い見どころは?原作の八右衛門は悪者?封印切・梅川忠兵衛・恋飛脚大和往来ネタバレ結末

こんにちは、らら子です。今回は宝塚歌劇の名作ミュージカル『心中・恋の大和路』をご紹介します。読み方は「しんじゅう・こいのやまとじ」。

原作は近松門左衛門の心中物『冥途の飛脚(めいどのひきゃく)』。主役は遊女・梅川(うめがわ)と飛脚問屋(ひきゃくどんや)の主人・亀屋忠兵衛(ちゅうべえ)の二人です。

恋心と見栄で公金横領してしまう男の「破滅の美学」をロック音楽にのせて、宝塚歌劇としては異色のミュージカルにしています。

『心中・恋の大和路』のあらすじ、見どころ、歌舞伎や文楽との違いを深掘りしていきます。

2022年に雪組で上演された『心中・恋の大和路』感想もお読みくださいね^^

恋飛脚




心中・恋の大和路~原作は近松心中物、ジャンルは世話物、冥途とは?飛脚とは?

原作は近松門左衛門作の『冥途の飛脚(めいどのひきゃく)』。文楽や歌舞伎でもくり返し上演されている名作です。心中は「世話物」のジャンルにあたります。

「冥途(冥土)」とは、死者が向かう迷いの世界や、そこに行くまでの道程です。ひらたく言えば「あの世」ですが、天国とは反対の、救われない地獄です。

「飛脚」は金品や手紙の運び人。各地に配置されていて、駅伝リレー形式で届けます。

『冥途の飛脚』という題名は、冥途から送り込まれた飛脚によって、二人があれよあれよと地獄に送られることを連想させます。

もちろん忠兵衛の家業の飛脚問屋にかけています。さすが近松門左衛門、上手いネーミングだと思います。

『冥途の飛脚』は大ヒットし、改作の『けいせい恋飛脚(こいびきゃく)』または『傾城恋飛脚』、さらにアレンジされた『恋飛脚大和往来(こいのたよりやまとおうらい)』などが作られました。

ところで、宝塚版のポスターによく使われる二人の駆け落ちの姿は、雪山のイメージです。

しかし、本来『冥途の飛脚』では、二人の駆け落ちの時に降っているのは雨の設定。改作の『傾城恋飛脚』では天候が雪に変わっています。

つまり、宝塚版はこれらを原作としたミックスなんですね。




心中・恋の大和路~どんな話?梅川忠兵衛・封印切:結末ネタバレ

遊女・梅川(うめがわ)と亀屋忠兵衛(ちゅうべえ)。

主役二人の名をとって『梅川忠兵衛(うめがわちゅうべえ)』とも、クライマックスで公金の金包みの封印を切ることから『封印切(ふういんぎり)』とも呼ばれます。

飛脚問屋というのは、今でいう郵便局のような役割で、手紙や為替、金を扱う信用第一の商売。

特に亀屋は「飛脚の鑑(かがみ)」と言われるほどの店です。

忠兵衛は飛脚ではなく、飛脚問屋亀屋の主人です。といっても養子で、まだ20代半ばの年齢です。

田舎から大都会へ出てきた忠兵衛は、言ってみれば社会人デビューしたようなもの。遊びも覚え、新町の下級の遊女・梅川と深い仲になっています。

忠兵衛は梅川への恋心と見栄から、公金横領に手を染めてしまいます。

公金横領は死罪。二人は忠兵衛のふるさと大和(今の奈良県)をめざして逃げていきます。

待ち受けるのは死しかないのですが、お参りをしたり祭りを見たり、二人にとって心はずむ初めての旅でもあります。ウキウキしている二人が切ない。

ふるさとにたどり着いた二人ですが、すでに追っ手は迫ってきています。ここには居場所はありません。

死を覚悟しながらも生きるために雪山へ向かう二人を、涙ながらに見送る父や仲間の情愛が涙を誘います。

細かいあらすじは、登場人物の説明の後にたっぷりとお読みください(^_-)-☆




心中・恋の大和路~主な登場人物:梅川・忠兵衛・八右衛門・与平・妙閑・孫右衛門

忠兵衛は、大和の新口村(にのくちむら)の大百姓の息子で、二十歳で大阪の飛脚問屋の亀屋の養子となります。自分の家ではくつろげず、ついつい廓に通っています。

梅川は槌屋(つちや)の抱え女郎。下級の遊女です。忠兵衛とは相思相愛。京都に母親がいて、親思い。

忠兵衛の友人の丹波屋八右衛門(たんばやはちえもん)。忠兵衛よりはちょっと年長で米問屋の主人。それなりの遊び人だが商売もきちんとします。

忠兵衛の養母で先代の女将・妙閑(みょうかん)。隠居しても亀屋の経営に厳しく目を光らせています。前半に登場。

忠兵衛の父で大和の大百姓の孫右衛門(まごえもん)。まじめでやさしい人物です。親心と養母・妙閑への申し訳なさの間で悩みます。後半に登場。

ほかは、宿衆、つまり飛脚問屋組合の旦那衆で、原作では十八軒の飛脚屋仲間です。仲間に不祥事があると連帯責任になってしまいます。

忠兵衛が役人に捕まる前に自分たちで捕えて役所につきだせば、宿衆の責任は大目に見てもらえるだろうと、行方を血眼になって探します。

宿衆は、古道具屋やアメ屋、あやつり人形の傀儡師(かいらいし)などに変装して二人の跡を追います。宝塚版ではものものしい捜索のようすが歌と踊りで表現されます。





心中・恋の大和路~宝塚オリジナル役:与平・かもん太夫のほのぼのエピソードの演出効果

宝塚版独自の登場人物は、亀屋の手代・与平(よへえ)と高級遊女・かもん太夫(かもんだゆう)です。与平役は、将来有望な若手スターが演じます。

亀屋の手代・与平(よへえ)は高級遊女・かもん太夫に一目ぼれ。かもん太夫に会える日を夢見て小銭をためています。

そんな与平を、忠兵衛はからかい半分で座敷に連れて行きました。与平が必死に貯めた銀三十匁(もんめ)を差し出すと、かもん太夫は与平の真心に心打たれます。

かもん太夫は、与平と盃(さかずき)を交わします。ふつうは何度も通ってお金を積んでからでないとできないことです。

初回の座敷にも関わらず、かもん太夫のほうから盃を交わすと言ってくれた計らいに、忠兵衛も八右衛門もおどろき、感謝します。

身請けが決まっているかもん太夫は髪からかんざしを抜き「私のことは一夜の夢、幻と思われて、ごきげんようお勤めなさいまし。」と、与平の真心への志に手渡します。

かもん太夫と与平の交わりはここで終わり。

その後、身請け前夜のかもん太夫の送別のお祝い、町の女の身なりに替えて廓の門を幸せに出ていく様子が描かれます。それをうらやましく見送る後輩の遊女や梅川の姿。

かもん太夫と与平のほのぼのエピソードを通して、遊郭のしきたりや遊女のおかれている立場が、現代の観客にもわかるという親切設計。

うまい演出ですね。





心中・恋の大和路~あらすじ:忠兵衛は短気でプライドが高く心の弱いイケメン

忠兵衛は主役なので、イケメンで良い人に描かれがちですが、近松には「短気が損気の忠兵衛」「忠兵衛元来悪い虫」と欠点だらけの人物描写をされています。

忠兵衛は、飛脚問屋の主人とはいえ養子の身分。おまけに養母の妙閑の管理もきびしく、自由になる金はありません。

梅川の元に通いたいあまりに、店の金に手を付けるようになります。

梅川を自分のものにするためには、三百両で身請けする必要があります。金持ちの田舎の客が梅川を身請けする話は順調に進んでいます。

忠兵衛ますます心が焦り、梅川に向かって浮気者となじります。梅川はこの世で添えないなら死ぬとパニック。

忠兵衛は田舎の客に対抗して手付金として五十両を払います。

翌日の朝、友達で米問屋主人の八右衛門が、亀屋に五十両を受け取りに来ます。が、その金は忠兵衛が手付金に使ってしまっています。

怒る八右衛門ですが、憎めない忠兵衛に頼み込まれてしぶしぶゆるします。さらに養母・妙閑の前で、金は受け取り済みとごまかしてやったりもします。

この部分は笑いの起きるコミックリリーフ、文楽や歌舞伎でいうところのチャリ場です。

ここで使われる小道具が「鬢水入れ(びんみずいれ)」。髪をのほつれを直す水をいれる楕円形の容器です。

これがちょうど五十両の形も大きさもそっくり。

これを紙にくるんで金包みの代わり見せかけ、偽の証文まで書いて文盲の妙閑に見せたというわけです。




心中・恋の大和路~あらすじ:新町の座敷~八右衛門はイヤな奴じゃないの?文楽や歌舞伎と違い

江戸からの公金三百両を届けるため、忠兵衛は夜更けに急いで北の堂島の蔵屋敷に届けに行きます。

「これは石ころや、金や」と、さんざんに心が乱れます。身もだえするうちに羽織も脱げ、ついに梅川がいる南の新町へ足をむけてしまいます。

観客全員が心の中で「だめーーーー!」と叫ぶシーンです。

その頃、友人の八右衛門は廓(くるわ)にいました。

忠兵衛の身の破滅を心配する八右衛門は、これからは忠兵衛が来ても相手にしないようにと、一同に言って聞かせます。

忠兵衛が金に困っている証拠に、例のニセの五十両の紙包みまでみんなに見せています。

それを立ち聞きしていた忠兵衛は、恥をかかされたと座敷に乗り込んできます。人々の前で、「三百両ぐらい用意できるわい!」とふところから金包みを取り出します。

八右衛門は、その金包みが何かを知っています。

心配してついてきた手代の与平も止めにはいります。「やめてくれぇ」とオロオロする八右衛門ですが、忠兵衛は止まりません。

この金は養子に来る時の持参金だと言い張り、ついに全ての封印を切って金包みをばらしてしまいます。

この八右衛門は友達思いのいい奴なのです。すべて忠兵衛を心配しての実力行使だったのですが、忠兵衛は逆切れしてしまいました。

歌舞伎では改作『傾城恋飛脚(けいせいこいびきゃく)』をもとにした『恋飛脚大和往来(こいのたよりやまとのおうらい)』が人気演目です。

こちらの改作の八右衛門は嫌な奴です。八右衛門は梅川に気があり、忠兵衛をおとしいれます。忠兵衛が封印を切ると、すぐに八右衛門はお上に告げ口するんですね。




心中・恋の大和路~あらすじ:封印切り(ふういんぎり)

歌舞伎では、封印を切るところの心理描写や動きは、歌舞伎役者の演技の見せ所。ねちっこくたっぷりと時間をかけます。

一方、文楽は売り言葉に買い言葉というテイで、あっさりと封印を切ってしまいます。

チャリンチャリンと小判の束が空中でやり取りされたりする、ややおかしみのある場面もあり、あとの悲劇を際立たせます。

宝塚の封印切りは、生身の人間がやるので、歌舞伎のようにたっぷりと演じられます。

忠兵衛は文字通りブチ切れて封印を切ります。そのあとは、自分を含め金に執着する人間をあざ笑うように、狂乱の歌を歌いながら小判をばらまきます。

ここまでが1幕。

2幕では梅川の身請けが決まり、廓ではめでたい雰囲気に包まれます。

しかし忠兵衛はすぐにでも梅川を連れ出したいと、手続きを急がせます。

忠兵衛はこの金は養子縁組の持参金だとウソをつき、手付金プラス二百五十両で身請けの清算をします。残り金も周囲の人間への心づけに使ってしまいます。

ウソを信じた梅川は、二人の未来を夢見てただ浮かれるばかり。かもん太夫のように晴れがましく廓を出ていけないのが不服そうです。

忠兵衛は公金横領の事実を告げます。その先に待ち受けている死を、梅川も喜んで受け入れます。





心中・恋の大和路~あらすじ:大和の新口村への逃避行

(出典:デイリースポーツ)

廓を出た二人は、途中で黒いお揃いの着物に着替えます。

歩きなれない梅川をおんぶする忠兵衛。何かにつまずき忠兵衛は転び、二人とも地面で笑い転げます。

このおんぶが宝塚独特のアクロバティックなポーズで、いつも観客を惑わすんですよねー。

娘役はピンと背中をのばし、膝から下もピンと後ろへ曲げて、まるで荷物のように男役の背中に乗るのです。

文楽人形なら女形の足はないのでなんの問題もないのですが、なぜここで無理しておんぶの振り付けなのか。謎です。

さて、二人は野良着に着替えて新口村へたどり着きます。すでに宿衆(=商売仲間)が大勢入り込み、変装して忠兵衛の行方を捜しています。

幼なじみの忠三郎の家の軒先に隠れて、二人は様子をうかがっています。そこへ忠兵衛の父の孫右衛門が通りかかり、目の前で突然転びました。

思わず飛び出す梅川。かいがいしく孫右衛門の世話を焼きます。孫右衛門は、この見ず知らずの美人が梅川であることに気づきます。

忠兵衛と一目会いたい孫右衛門ですが、(原作では身代わりに牢屋に入れられた)養母・妙閑に申し訳なく再会を拒否します。

梅川は機転を利かせ、父と息子の最後の別れをさせます。

【文楽】傾城恋飛脚(けいせいこいびきゃく)かんたんあらすじと解説:見どころ

もごらんくださいね。



心中・恋の大和路~八右衛門の絶唱から雪山へ

生き延びてほしい孫右衛門(宝塚版はおさな馴染みの忠三郎)から抜け道を教えてもらい、逃げようとする二人の前に、八右衛門が現れます。

二人を逃がしてやりたい八右衛門ですが、忠兵衛は憎まれ口をたたきます。

八右衛門は、できる限り生きて逃げるように二人を勇気づけ、旅費と保存食の炒り豆を二人に渡します。友人の忠兵衛のことを心底大事に思っています。泣けます。

このまま逃げてもいずれは雪山で凍死する、それならそれに任せて二人を放っておいてやってくれと宿衆たちに頼みます。

忠兵衛と梅川は雪の山をよろよろと越えていきます。一度は舞台袖に引っ込んだ二人が、白装束に着替えてふたたび登場します。

折り重なるように倒れ込む二人。満足そうな二人を雪が優しく包んでいきます。

その間、八右衛門は舞台前方で「この世にただひとつ」を朗々と絶唱します。

「歩み、続けて、あなた、おまえ、歩み続けて~、歩み続けて~」というエンディング仕様の歌詞です。曲調はロック、メロディはラテン風味です。

再び幕があがるとセンターに立つ二人。客席に一礼すると幸せそうに雪山に戻っていき、幕が下ります。

どんな悲劇でもかならず明るいフィナーレがつく宝塚にしては珍しい演出です。



心中・恋の大和路~歴代キャスト:瀬戸内美八・剣幸・汐風幸・壮一帆・和希そら

『心中・恋の大和路』は、星組初演で1979年と1982年に瀬戸内美八(せとうちみや)さんが主演。月組では1989年にトップスター剣幸(つるぎみゆき)さんが主演。

和物を得意とする雪組では1998年に汐風幸(しおかぜこう)さんが主演。汐風幸(しおかぜこう)さんの父は歌舞伎の片岡仁左衛門さんです。妹は女優の片岡京子さん。

汐風幸さんの忠兵衛は、さすがに堂に入った和物の所作と、評判となりました。

雪組では2014年にも、トップスター壮一帆(そうかずほ)さんが主演。姿も美しく、意味での軽い持ち味が、忠兵衛の浅はかさをうまく浮かび上がらせていました。

2022年には、和希そらさんが主演。トップスター以外では初、しかも宙組から雪組へ組替えしてすぐの主演で大好評となりました。

コロナ禍で梅田公演は惜しくも途中で中止、東京公演は本来の千穐楽が初日となり、翌日に急きょ追加公演2回とディレイ配信(後日の録画配信)がきまりました。

和希そらさんは2021年の宙組バウホール公演の主演『夢千鳥(ゆめちどり)』も、コロナ禍で公演中止、異例の無観客収録でのディレイ配信でした。今回はさらに別日の追加公演実施とディレイ配信。

和希そらさんの人気の高さと、劇団の期待の大きさがうかがえますよね。よろしければこちらもご覧くださいね。

和希そら人気が爆発!ダンス歌芝居センス抜群!小粒でぴりりと辛い!性格は?他のジェンヌとの関係は?



心中・恋の大和路~みどころ:宝塚にはめずらしいダメ男

文楽の主役はだいたいがダメ男。なぜか女にもてます。これは文楽の観客が旦那衆ばかりだったからという説があります。

宝塚の主役は男らしくかっこいいのが魅力。忠兵衛のような軟弱な男はほとんどいません。

タカラジェンヌはふだんから、いかにかっこよく男らしく演じるかを追求しています。忠兵衛はその逆なので、難しい役作りでしょうね。

かっこいいのは忠兵衛の友人、八右衛門。この役は分別があって粋(すい)です。宝塚版はソロの大絶唱があるので、歌が上手いほうがいいです。

2014年雪組公演は、いわゆるつっころばしがニンの壮一帆(そうかずほ)さんが忠兵衛。

店の女中にちょっかいをだしたり、手代の与平をからかったりする軽薄さも違和感がありませんでした。

八右衛門は、歌うまで鳴らしていた未涼亜希(みすずあき)さんが演じました。

あれはよかったですねー。あんなに青天のカツラが似合うジェンヌさんは珍しいです。

トップ、二番手とも大阪出身ということもあり、息もぴったり。安心して近松の世界に身を任せられる公演でした。

2022年雪組公演では、岡山県出身の和希そらさんです。八右衛門は専科の凪七瑠海(なぎなるうみ)さん。お二人とも歌・ダンス・芝居と三拍子そろっています。

凪七瑠海さんは、宙組時代の和希そらさんがお世話になった方です。東京出身で、歌がうまくて大人で八右衛門ぴったり。

近松の世界を身近に育った壮・未涼コンビに対しとはまた違う、計算し尽くされた役作りなのかもしれません。

2022年『心中・恋の大和路』感想も良かったらお読みください。

感想『心中・恋の大和路』2022年雪組:和希そら・夢白あや:梅川忠兵衛の新たな伝説!異例の追加公演ディレイ配信!