『傾城反魂香』(けいせいはんごうこう)は、歌舞伎でも人形浄瑠璃でも人気の演目です。特に『ども又』で知られる『土佐将監閑居の段(とさのしょうげんかんきょのだん)』は、夫婦愛に打たれるエエ話。
あらすじや見どころをご紹介しましょう。
\㊗襲名/
2月文楽公演『傾城反魂香』で、竹本津駒太夫改め六代目竹本錣太夫が襲名を披露します。
新・錣太夫が情感たっぷりに語る心優しい物語をお聴き逃しなく。
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— 国立劇場(東京・半蔵門) (@nt_tokyo) February 19, 2020
目次
土佐将監閑居の段(とさのしょうげんかんきょのだん):あらすじザックリ言うと
御用絵師(ごようえし)の土佐将監(とさのしょうげん)は宮中で絵師たちと争い、謹慎を命じられてひっそり住む家での一幕です。
このお話の主役は、将監の弟子の浮世又平(うきよまたべえ)。又平は生まれつき吃音(きつおん)で、話そうとするとどもってしまいます。
その苦しみと最後に吃音が直る奇跡を描いているため、この段は通称『ども又(=どもりの又平)』とも呼ばれます。
ども又の実直な人柄と、それをささえる女房の明るさが胸を打ちます。
絵から抜け出た虎が筆でかき消されたり、石に描いた自画像が反対側に抜け出たり、ファンタジーも見どころのひとつです。
土佐将監閑居の段(とさのしょうげんかんきょのだん):あらすじ前半
幕が開くと、土佐将監(とさのしょうげん)が住むわびしい家の庭先。
村人たちが虎が藪に逃げ込んだと騒いでいるところへ、土佐将監夫妻、弟子・修理之介が家のなかから現れます。
将監は絵から抜け出した虎であることを見抜き、修理之介は絵筆をとりあげて虎をかき消します。
将監はこれをほめ、修理之介に「土佐光澄(とさのみつすみ)」という名前を与えます。
一方、兄弟子の又平は、生まれつきの吃音で上手く話せず、土産物の大津絵(滋賀大津の民俗絵画)を描いて細々と生活しています。
又平の妻おとくは、おしゃべりが上手でよく気がつく明るい性格。夫の才能を信じて、又平をかいがいしくサポートしています。
ある日、又平は妻とともに師匠の家にごきげんうかがいの挨拶にいきます。そこで、後輩の修理之介が師匠の苗字「土佐」を与えられたことを知り、ショックを受けます。
土佐将監閑居の段(とさのしょうげんかんきょのだん):あらすじ中盤の奇跡
又平は自分も絵師として師匠の苗字をいただきたいと思います。上手く話せないので、妻の口から願い出ますが、師匠にはガンとして受け入れてもらえません。
そこへ、狩野元信(かのうもとのぶ)の弟子が、(元信の恋人の)姫が敵に奪われたと、助けを求めてやってきます。
将監がニセの使者をたてて姫を救出しようと思いつくと、なんと又平が使者に立候補。師匠は相手にせず修理之介を向かわせることにします。
師匠は絵の功績もなく、絵の説明もできない又平には「土佐」の名は与えられないといいます。
見苦しいほど必死に頼む又平に周囲もあきれ顔。ついに妻にもきつい言葉を投げかけられてキレてしまいます。
妻のおとくは又平に、庭先にある石柱のような手水鉢に自画像を描いて自害して、贈り名、つまり死後に名前を贈ってもらおうといいます。
手水鉢の水で口をすすぎ、身を清めて絵を描くと、あら不思議、絵が裏側(客席側)にも写し出てきます。
土佐将監閑居の段(とさのしょうげんかんきょのだん):あらすじ結末はハッピーエンド
又平が描いたみごとな絵に感心した師匠の将監は「土佐光起(とさのみつおき)」の名を与え、姫君救出の使者を許します。
しかし、使者として通用するか心配する将監に、妻のおとくは節(メロディ)がついていれば話せるといい、鼓を持ち出します。
又平は、いつも練習している「大頭の舞(だいがしらのまい)」を、おとくの鼓に合わせて、歌いながら舞い踊ってみせます。
又平が喜んで出発しようとすると、将監が何を思ったか自画像の描かれた手水鉢を真っ二つに切ります。とたんに、ばったり倒れて気を失う又平。
おどろいて抗議するおとくに、将監はこれで病の元を断ち切ったので吃音がなおったはずだといいます。
又平が話してみると吃音が消えています。又平はおどろきつつ流行りの早口言葉までペラペラとしゃべりだし、ハッピーエンドとなります。
見どころ:歌舞伎や他の作品との違い。
歌舞伎でも人気のこの作品は、この部分だけにスポットをあてた『名筆傾城鑑(めいせいけいひつかがみ)』という改作もあります。
歌舞伎では、師匠に相手にされない又平夫婦の悲嘆や、手水鉢に渾身の力で自画像を描く又平の迫力など、悲壮なまでの覚悟で深刻に進んでいきます。
それに比べると、文楽のほうは軽いというかおおらかな人形劇です。観客も心の中で「ども又やめとけー」とツッコみたくなる感じ。
おとくの鼓に合わせて舞い踊る場面も、人形にしかできないコミカルな動きがふんだんに取り入れられています。
見どころというか聞ききどころは、前半の又平の吃音ぶりと、後半のよどみのない話しぶりの対比。流行りの早口言葉までスラスラと言ってのける奇跡に。
なんといっても文楽は語りのプロの太夫が演じるので、こちらも安心してその奇跡を楽しめます。
どちらもそれぞれに良さがあるので、機会をみつけてぜひ見比べてください。
コメント
おはようございます。
最近1か月、「傾城反魂香」を毎朝コツコツと戦前に注釈なしの有朋堂が出した「近松門左衛門集」を読んできましたが、後半いよいよ筋がわからなくなり、小学館の「新編日本古典文学全集」の近松門左衛門集にある傾城反魂香現代語訳に寄らば大樹をしています。
らら子さんは、ふだん文楽の読書にかける時間や手間(書籍購入や図書館閲覧など)はどのくらいなんですか?
理解の早さや深さに驚いてます。
たいし様
コメントありがとうございます。
原典に当たっていらっしゃる方にお答えするのも恥ずかしいのですが、私は公演で取り上げられる場面しかわかっていないのです。
ですから、まったくもって深くないです。
自分が理解できる分だけ、初心者の友達に内容をかいつまんで説明するつもりで、読みやすい長さと言葉遣いを心がけてはいます。
もしそのあたりが、わかりやすいと思っていただけていたら、うれしいです。
公演プログラム・チラシ、自分が鑑賞した時のイヤホンガイドの内容などのほか、
頼りにしているのは以下の3つの情報源です。
・文化デジタルライブラリー https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/
・藤田洋『文楽ハンドブック』三省堂,2011.
・権藤丈一『文楽の世界』講談社,1985.
後は、文楽ファンや歌舞伎ファンの方々のブログも読んでいます。
でも、自分で実際に観た公演以外は、資料を読んでもよくわからないので、自分の言葉では書けないなと実感しています。
お答えになっていなくてすみません。
今日「傾城反魂香」を2回目の通読を終えることができ、嬉しい限りです。
上中下の巻の間に三熊野かげろふ姿という段があるのですが、これは反魂香によっておみやが元信と道行を幽界でたどっている描写なのだろうかと想像しつつ、読み取りの難しさを感じてます。
たいし様
こんにちは。2回目通読!すごいですね。
ども又以外の話はほとんど上演されないと聞きましたが、確かに「反魂香」がキーアイテムですね。幽霊でも会いたいのですね。