心中恋の大和路あらすじ解説~冥途の飛脚~宝塚・文楽・歌舞伎の違い見どころ原作は?八右衛門は悪者?封印切・梅川忠兵衛・恋飛脚大和往来

こんにちは、らら子です。今回は宝塚歌劇の名作ミュージカル『心中・恋の大和路』をご紹介します。読み方は「しんじゅう・こいのやまとじ」となります。

原作は近松門左衛門の心中物『冥途の飛脚(めいどのひきゃく)』です。主役は遊女・梅川(うめがわ)と飛脚問屋(ひきゃくどんや)の主人・亀屋忠兵衛(ちゅうべえ)。

恋心と見栄で公金横領してしまう男の「破滅の美学」を、ロック音楽にのせて宝塚歌劇としてはちょっと異色のミュージカルにしています。

『心中・恋の大和路』のあらすじ、見どころ、歌舞伎や文楽との違いを深掘りしていきます。

恋飛脚




心中・恋の大和路~原作は近松心中物、ジャンルは世話物

原作は近松門左衛門作の『冥途の飛脚(めいどのひきゃく)』。文楽や歌舞伎でもくり返し上演されている演目です。心中は「世話物」のジャンルにあたります。

「冥途(冥土)」とは、死者が向かう迷いの世界やそこに行くまでの道程です。ニュートラルに言えば「あの世」ですが、天国とは反対の救われない地獄です。

「飛脚」は金品や手紙の運び人で、各地に配置されて駅伝リレー形式で届けます。

『冥途の飛脚』という題名は、忠兵衛の家業にひっかけ、冥途から送り込まれた飛脚によって、二人があれよあれよと地獄に送られることを連想させます。

さすが近松門左衛門。上手いネーミングだと思います。

『冥途の飛脚』は大ヒットし、改作の『けいせい恋飛脚(こいびきゃく)』または『傾城恋飛脚』、さらにアレンジされた『恋飛脚大和往来(こいのたよりやまとおうらい)』などが作られました。

宝塚版のポスターによく使われる二人の駆け落ちの姿は、雪のイメージですが、『冥途の飛脚』の設定では二人の駆け落ちの時に降っているのは雨。改作の『傾城恋飛脚』では天候が雪に変わっています。

宝塚版はこれらを原作としたミックスなんですね。




心中・恋の大和路~どんな話?梅川忠兵衛・封印切

遊女・梅川(うめがわ)と亀屋忠兵衛(ちゅうべえ)。

主役二人の名をとって『梅川忠兵衛(うめがわちゅうべえ)』とも、クライマックスで公金の金包みの封印を切ることから『封印切(ふういんぎり)』とも呼ばれます。

飛脚問屋というのは、今でいう郵便局のような役割で、手紙や為替、金を扱う信用第一の商売。特に亀屋は「飛脚の鑑(かがみ)」と言われるほどの店です。

忠兵衛は飛脚ではなく飛脚問屋の主人です。といっても養子でまだ20代半ばの年齢です。

田舎から大都会へ出てきた忠兵衛は、言ってみれば社会人デビューしたようなもの。遊びも覚え、新町の下級の遊女・梅川と深い仲になっています。

忠兵衛は梅川への恋心と見栄から公金横領に手を染めてしまいます。

二人は忠兵衛のふるさと大和をめざして逃げていきます。待ち受けるのは死しかないのですが、二人にとって心はずむ初めての旅でもあります。

ふるさとにたどり着いた二人ですが、すでに追っ手は迫ってきています。ここには居場所はありません。

死を覚悟しながらも生きるために雪山へ向かう二人を、涙ながらに見送る父の情愛が涙を誘います。




心中・恋の大和路~主な登場人物:梅川・忠兵衛・八右衛門・与平・妙閑・孫右衛門

忠兵衛は、大和の新口村(にのくちむら)の大百姓の息子で、二十歳で大阪の飛脚問屋の亀屋の養子となります。自分の家ではくつろげず、ついつい廓に通っています。

梅川は槌屋(つちや)の抱え女郎。いわば下級の遊女です。忠兵衛とは相思相愛。京都に母親がいて、親思い。

主役以外の主な登場人物は、忠兵衛の友人の丹波屋八右衛門(たんばやはちえもん)。忠兵衛よりはちょっと大人でそれなりの遊び人。

忠兵衛の養母で先代の女将・妙閑(みょうかん)。亀屋の経営に今も厳しく目を光らせています。前半に登場。

忠兵衛の父で大和(今の奈良)の大百姓の孫衛門(まごえもん)。まじめでやさしい人物です。親心と妙閑への申し訳なさの間で悩みます。後半に登場。

ほかは、宿衆つまり飛脚問屋組合の旦那衆です。原作では十八軒の飛脚屋仲間で、連帯責任になるので血眼になって探します。

宿衆は、古道具屋や飴屋、薬屋などに変装して二人の跡を追います。宝塚版ではものものしい捜索のようすが群舞で表現されます。





心中・恋の大和路~宝塚の歴代キャスト:与平・かもん太夫は宝塚オリジナル

『心中・恋の大和路』は、星組初演で1979年と1982年に瀬戸内美八(せとうちみや)さんが主演。月組では1989年にトップスター剣幸(つるぎみゆき)さんが主演。

和物を得意とする雪組では1998年に汐風幸(しおかぜこう)さんが主演。汐風幸(しおかぜこう)さんの父は歌舞伎の片岡仁左衛門さんです。さすがに堂に入った所作が評判となりました。

雪組では2014年にもトップスター壮一帆(そうかずほ)さんが主演。姿の美しさといい意味での軽い持ち味が、忠兵衛の浅はかさをうまく浮かび上がらせていました。

2022年には、和希そらさんが宙組から雪組へ組替え後に初の主演で大好評となりました。コロナ禍で梅田公演は惜しくも途中で中止となりました。

宝塚版のオリジナルキャストは、亀屋の手代・与平(よへえ)と高級遊女・かもん太夫(かもんだゆう)です。与平役は、将来有望な若手スターが演じます。

亀屋の手代・与平(よへえ)は高級遊女・かもん太夫に一目ぼれ。かもん太夫に会える日を夢見て小銭をためています。

そんな与平を、忠兵衛はからかい半分で座敷に連れて行きました。かもん太夫は与平の純粋さに心打たれ、記念にかんざしを手渡します。

その後、身請けされたかもん太夫が、一般女性のような身なりに替えて、廓の門を幸せに出ていく様子や、それをうらやましく見送る梅川の姿が描かれます。

かもん太夫のエピソードを通して、遊郭のしきたりや遊女のおかれている立場が現代の観客にもわかるという、うまい演出ですね。





心中・恋の大和路~あらすじ:忠兵衛は欠点だらけのイケメン

忠兵衛は主役なので、イケメンで良い人に描かれがちですが、近松には「短気が損気の忠兵衛」「忠兵衛元来悪い虫」と欠点だらけの人物描写をされています。

忠兵衛は飛脚問屋の主人とはいえ養子の身分。おまけに養母の妙閑の管理もきびしく、自由になる金はありません。梅川の元に通いたいあまりに、店の金に手を付けるようになります。

お金持ちの田舎の客が、梅川を自分のものにするため三百両で身請けするという話を聞き、忠兵衛は対抗すべく手付金として五十両を払います。

友達の八右衛門が自分のところにきた金五十両を受け取りに来ますが、その金は忠兵衛が手付金に使ってしまっています。

怒る八右衛門ですが、忠兵衛に頼み込まれてしぶしぶゆるします。さらに養母妙閑の前で、金は受け取り済みとごまかしてやったりもします。

ここで使われる小道具が「鬢水入れ(びんみずいれ)」。髪をのほつれを直す水をいれる楕円形の容器です。これがちょうど五十両の形も大きさもそっくり。

これを紙にくるんで、金包みの代わりに妙閑に見せたというわけです。

ところで田舎の客の梅川の身請け話は進んでいて、梅川はこの世で添えないなら死ぬとパニック。忠兵衛、ますます心が焦ります。




心中・恋の大和路~あらすじ:新町の座敷~八右衛門はイヤな奴じゃないの?文楽や歌舞伎と違い

江戸からの公金三百両が届き、忠兵衛は夜更けに急いで北の堂島の蔵屋敷に届けに行きます。

さんざんに心が乱れますがついに梅川がいる南の新町へ足をむけてしまいます。

観客全員が「だめーーーー!」と心で叫ぶシーンです。

その頃、八右衛門は廓(くるわ)にいました。

忠兵衛の身の破滅を心配する八右衛門は、これからは忠兵衛が来ても相手にしないようにと、一同に言って聞かせます。

忠兵衛が金に困っている証拠にと、例のニセの五十両の紙包みまでみんなに見せます。

それを立ち聞きしていた忠兵衛は、恥をかかされたと腹を立てます。人々の前で、三百両ぐらい用意できると金包みを取り出します。

八右衛門は、その金包みが何かを知っています。「やめてくれぇ」とオロオロ懇願する八右衛門ですが、忠兵衛は止まりません。

この金は養子に来る時の持参金だと言い張り、ついに全ての封印を切って金包みをばらしてしまいます。

この八右衛門は友達思いのいい奴なのです。すべて忠兵衛を心配しての実力行使だったのですが、忠兵衛は逆切れしてしまいました。

ところで、歌舞伎では改作『傾城恋飛脚(けいせいこいびきゃく)』をもとにした『恋飛脚大和往来(こいのたよりやまとのおうらい)』が人気演目です。

こちらの改作の八右衛門は嫌な奴です。八右衛門は梅川に気があり、忠兵衛をおとしいれます。忠兵衛が封印を切ると、すぐに八右衛門はお上に告げ口するんですね。




心中・恋の大和路~あらすじ:封印切り(ふういんぎり)

封印を切るところの心理描写や動きは、歌舞伎役者の演技の見せ所。ねちっこくたっぷりと時間をかけます。

一方、文楽は売り言葉に買い言葉というテイであっさりと封印を切ってしまいます。

チャリンチャリンと小判の束が空中でやり取りされたりするややおかしみのある場面もあり、あとの悲劇を際立たせます。

宝塚の封印切りは、生身の人間がやるので、歌舞伎のようにたっぷりとやります。

忠兵衛は文字通りブチ切れて封印を切ります。そのあとは、自分を含め金に執着する人間をあざ笑うような狂乱の歌を歌います。

梅川の身請けが決まり、廓ではめでたい雰囲気に包まれます。

しかし忠兵衛はすぐにでも梅川を連れ出したいと、手続きを急がせます。

打って変わって忠兵衛は静かに三百両で身請けの清算をします。身請けの代金の残りも、周囲の人間への心づけにしたりして全て使い切ります。

何も知らない梅川は、二人の未来を夢見てただ浮かれるばかり。かもん太夫のように晴れがましく廓を出ていけないのが不服。

忠兵衛は公金横領の事実を告げます。その先に待ち受けている死を、梅川も喜んで受け入れます。





心中・恋の大和路~あらすじ:大和の新口村への逃避行

二人は着の身着のまま、つまり廓の派手な衣装のまま忠兵衛のふるさと新口村をめざします。つまり歩きなれない梅川をおんぶする忠兵衛。

このおんぶが宝塚独特のアクロバティックなポーズでいつも観客を惑わします。

娘役はピンと背中をのばし、膝から下もピンと後ろへ曲げて、まるで荷物のように男役の背中に乗るのです。

文楽人形なら女形の足はないのでなんの問題もないのですが、なぜここで無理しておんぶの振り付けなのか。謎です。

さて、二人は新口村へたどり着きます。すでに宿衆(=商売仲間)が大勢入り込み、変装して忠兵衛の行方を捜しています。

軒先に隠れて、二人はふるさとの人々をなつかしく眺めています。

そこへ忠兵衛の父の孫右衛門が通りかかり、目の前で突然転びました。

思わず飛び出す梅川。かいがいしく孫右衛門の世話を焼きます。孫右衛門は、この見ず知らずの美人が梅川であることに気づきます。

忠兵衛と一目会いたい孫右衛門ですが、身代わりに牢屋に入れられた養母・妙閑に申し訳なく再会を拒否します。

梅川は機転を利かせ、父と息子の最後の別れをさせます。

【文楽】傾城恋飛脚(けいせいこいびきゃく)かんたんあらすじと解説:見どころ

もごらんくださいね。



心中・恋の大和路~八右衛門の絶唱から雪山へ

生き延びてほしい孫右衛門から抜け道を教えてもらい、逃げようとする二人の前に、八右衛門が現れます。

八右衛門は宿衆の一人として追っ手に加わっていたのです。ですが、心の底では二人を逃がしてやりたいと思っています。

このまま逃げてもいずれは雪山で凍死する、それならそれに任せて二人を放っておいてやってくれと他の宿衆たちに頼んでいました。

八右衛門は、できる限り生きて逃げるように二人を勇気づけ、旅費と保存食の炒り豆を二人に渡します。

八右衛門は宿衆としての大人の立場もあるのに、軽率で未熟な友人の忠兵衛のことを心底大事に思っています。泣けます。

宝塚版では、二人が引っ込むと八右衛門は幕前で、「この世にただひとつ」を朗々と絶唱します。

「歩み、続けて、あなた、おまえ、歩み続けて~、歩み続けて~」というエンディング仕様の歌詞です。曲調はロック、メロディはラテン風味です。

そして場面が変わると一面の雪山。白装束の二人がよろよろと登場します。折り重なるように倒れ込む二人。満足そうな二人を雪が優しく包んでいきます。

再び幕があがるとセンターに立つ二人。客席に一礼すると幸せそうに雪山に戻っていき、幕が下ります。

どんな悲劇でもかならず明るいフィナーレがつく宝塚にしては珍しい演出です。



心中・恋の大和路~みどころ

八右衛門という役は、大人で粋で、なにより歌が上手くなくてはいけません。

2022年雪組公演では、八右衛門は専科の凪七瑠海(なぎなるうみ)さん。宙組時代の和希そらさんがお世話になった方です。歌がうまくて大人で八右衛門ぴったり。

2014年、前回の雪組公演では、歌うまで鳴らしていた未涼亜希(みすずあき)さんが八右衛門を演じました。

あれはよかったですねー。あんなに青天のカツラが似合うジェンヌさんは珍しいです。

いわゆるつっころばしがニンの壮一帆(そうかずほ)さんは、これぞ忠兵衛。

店の女中にちょっかいをだしたり、手代の与平をからかったりする軽薄さも違和感がありませんでした。

トップ、二番手が関西出身ということもあり、息もぴったり。安心して近松の世界に身を任せられる公演でした。

2022年の公演は、岡山県出身の和希そらさん、東京出身の凪七瑠海さんの組み合わせです。お二人とも歌・ダンス・芝居と三拍子そろっています。

近松の世界を身近に育った壮・未涼コンビとはまた違う、計算し尽くされた雰囲気かもしれません。