こんにちは~。らら子です。
月組公演『応天の門』-若き日の菅原道真の事-とラテン グルーヴ『Deep Sea -海神たちのカルナバル-』の感想です。
今回は、月組生大量退団でも話題になっています。いよいよこれからという若手から、組を支えてきた組長とベテランまで、月組の雰囲気がガラッと変わりそうな顔ぶれの退団はショックですね。
『応天の門』は期待が大きかっただけに、演出にはちょっと辛口です。ごめんあそばせ。
ショー『Deep Sea -海神たちのカルナバル-』の感想もごらんくださいね。
感想『Deep Sea -海神たちのカルナバル-』宝塚ラテン グルーヴ月組
目次
宝塚『応天の門』感想:応天の門あらすじ意味は?どんな話?
『応天の門』原作/灰原 薬「応天の門」(新潮社バンチコミックス刊)。ワタクシらら子は、原作も読んで観劇に備えておりました。
門としての応天の門というのは、平安京の宮廷の大内裏の門。ここから先は天皇と限られた貴族しか入れず、権力抗争に明け暮れている場所という意味ですね。
主人公はあの学問の神様の菅原道真。天満宮の天神様としても知られています。
もう1人の重要人物は在原業平。優れた歌人でもある色男。道真より20歳近く年長です。作品中では検非違使の長として都を守る要職にもついています。
若き日のひきこもり学生の菅原道真と、大人の在原業平という年の差コンビが、平安京でおこるミステリーを、道真の聡明な頭脳で解決していきます。
道真の父は天皇の侍読(じどく)として天皇のお側に使える高名な学者。業平は優れた家人で、天皇の孫。
どちらも高貴な生まれですが、藤原家が天下を取りつつある今、政治的には難しい立場にあります。
「応天門」の内側の貴族社会とは距離を置きたいと思っている道真。
しかし、曲がったことや理屈に合わないことが大嫌いで、事件に出合うと放っておけずにどんどん巻き込まれていきます。
宝塚『応天の門』感想:作品のビジュアル再現率は?もったいない役不足
さて、マンガ原作は、宝塚舞台化にあたってのビジュアルの再現率が楽しみなところ。
まず鳳月杏(ほうづきあん:以下ちなつ)さんの業平は文句なし!ご存知の通りモテモテ男なんですが、ただの色男じゃなくて骨太の大人の男性です。
お衣装もラメがキラキラ入っていて、場面ごとにどんどん違うお衣装を着て登場。しかもそれがいちいちよく似合っていて、眼福です。
それに比べて主人公の道真はなぁー。学生=文章生(もんじょうしょう)なので、よく見ると凝ってるけど、地味な服装をしています。しかも頭に布をかぶっています。
宝塚ファンとしては、美しい髪型、美しい衣装も楽しみのひとつなんですから。
シンプルな衣装だけに月城かなと(つきしろかなと:以下れいこ)さんの美しさは際立つのですが、そもそも原作の道真は目つきの悪い若造。
主人公のビジュアルは売りじゃないんですねー。
れいこ・ちなつ・平安貴族といったら、美しい公達ぶりとか大人の恋のさや当てとか観たいですなー。
トップ娘役の海乃美月ちゃん(以下:海ちゃん)は、唐の品を扱う店の女主人で唐人の昭姫(しょうき)役。
海ちゃんも、あでやかな昭姫を原作のビジュアルそのままにかっこよく演じています。
宝塚『応天の門』感想:大劇場公演にしては役が足りない!
脇を固める登場人物は紀長谷雄(きのはせお)。勉強嫌いで、女好きで、好奇心旺盛、厄介ごとを持ち込んでくる軽はずみな青年です。
演じるのが彩海せら(あやみ せら:以下あみ)ちゃん。甘え上手でちゃっかりしていて、明るくてほっておけなくてとてもいいです!
菅原家に仕える女房、白梅(はくばい)は彩みちる(いろどりみちる:以下みちる)ちゃん。
ボサボサ髪でそばかすだらけですが相当なインテリ。原作のビジュアルの再現率が高いのですが、書に優れているというキャラクターは生かされず。
ただ、内面的に難しいお役ではないので、なんだか役不足に思えます。もったいないなー。
長谷雄と白梅は出番が多く、マンガ原作らしいコミカルな振りも多くて、一緒にドタバタ走り回ります。
さすが月組のホープの二人、テンポ感もとてもいい。二人とも雪組出身なので、雪組育ちの月城かなとさんとも息があっています。
初めて見た人には楽めると思います。
でもなー。『応天の門』は好きだけど、これ大劇場でやる演目かなぁと思います。
主人公の設定が若造なので、若手スターがバウとか外部小劇場とかでやる方がよさそうです。
男役は同じような黒い冠位束帯姿の貴族がゾロゾロいて見分けつかないし、娘役も出番少ないし。じっさい、モブ芝居ばかりだし。
宝塚『応天の門』感想:まさかのヒロイン不在!ロマンス不在!
この芝居はヒロイン不在。なんということでしょう。
道真を事あるごとに「坊ちゃん呼ばわり」する、海千山千のテキパキしたできる女。年かさの昭姫に振り回される道真が見どころであります。
ですが、道真には幼い頃からの許婚がいる設定。昭姫と道真の間にロマンスはうまれません。
唯一、業平と駆け落ちしかけた藤原の姫、高子が登場しますが、若き日の再現ドラマが舞台奥で繰り広げられるだけ。
いえ、若き日の業平の英かおと(はなぶさかおと)君もいいんですよ?若き日の高子の蘭世 惠翔(らんぜけいと)ちゃんとも美しい並びです。
でもでも、せっかくの色男役なので、ちなつさんのラブシーンも見たかったなーと。
高子は駆け落ち騒動以来軟禁状態で、二人の接触はありません。
高子を演じるのは、天紫 珠李(あまし じゅり)ちゃん。目鼻立ちが大きく華やかなじゅりちゃんは、十二ひとえと大垂髪(おすべらかし)が、かなしいほど似合わないのですねー。
藤原氏の思惑にはハマらないぞ!という高子の気の強さとか気高さはいいのですが、なんだかじゅりちゃんの魅力が十二ひとえに封じ込められてしまってもったいない。
宝塚『応天の門』感想:伏線を広げたはいいけど……。
逆に「お!」と思ったのが、風間柚乃さんの藤原基経。原作より人間ぽく艶っぽくてよかった。赤をポイントに入れたブロンズのアイメイクがきれいです。
基経は道真の亡兄の吉祥丸と幼い頃に接点があります。
道真の亡兄の吉祥丸は、藤原氏にとりいるために父に命じられて基経の兄たちをたびたび訪ねて、結果的にいびられていました。
権謀術数にまみれつつ、基経は漢詩に深い関心があり、吉祥丸ともっと仲良くしたかった。
吉祥丸の愛した 「人知らずして慍(うら)みず、亦君子ならずや」という漢詩と共に「もうひとりの私」としていつも思い出している。
というのはわかるのですがー。ここは基経の独白を増やすとかして執着の内面を深掘りしてほしかったなー。心の動きを感じる間もなく場面転換。
そもそも原作では、本の虫の道真が現実に直面しながら、いろいろ試行錯誤しつつ謎を解いていくという過程の面白さがあります。
が、尺の都合上、道真があっという間に難題を解決してしまうも惜しいところです。まるで最初から答えを知っていたみたい。
無力感にまみれて悶々とするれいこさんを見たかった―。
宝塚『応天の門』感想:尺が合わない芝居、田渕先生の演出ってば。
と、もったいないもったいないを繰り返してここまで来てしまいました。
ラストはいろいろ回収しきれてなくて、最後はれいこさんが朗々と歌いながら舞台を去っていきましたが、ほぼ気が遠くなっていました。
なんとなく続きがあるような終わり方ですが、ないよね?続き。マンガ原作も未完ですしね。
今回の作品は上演時間1時間40分。ふだんのお芝居に比べると長いですが、それなりに長いお話を収めているので、何かと無理が生じます。
セリフのテンポも早いし、込み入った事情はモブ芝居の説明的コーラスでぐいぐい進行させて、最後はソロ歌で盛り上がってる感で締める演出は残念。
月組の芝居で心の動きをみせてー。まあ、このテンポ感がいいという見方もあるでしょう。
しかし、いろいろ考えて思い至ったのは、ワタクシらら子が田渕先生の作品と相性が悪いということ。
宙組『王妃の館-Château de la Reine-』も『異人たちのルネサンス』も、花組『アウグストゥス-尊厳ある者-』も、あかんかった。小劇場作品は見ていません。
これは好き好きなので、田渕先生が好きな方は申し訳ありません。
モブ芝居のそろいのお衣装も説明歌も、「ミュージカルなら入れるよね」的なコミカルな振り付けの、やたら忙しく歌い踊る明るい集団の歌も、なんか苦手。
今回の作品は、音楽もザ・宝塚ド定番で既視感(既聴感)がぬぐえませんでした。
宝塚『応天の門』感想:清和天皇さすがの千海 華蘭、光月るう、朝霧 真、名バイプレーヤーの退団
今回は、組長を筆頭に退団者が多いのも特徴。
光月 るう(88期) 千海 華蘭(92期) 朝霧 真(97期) 清華 蘭(98期) 結愛 かれん(101期) 花時 舞香(101期) 蘭世 惠翔(102期)
『応天の門』は、幼い清和天皇をめぐって権謀術数(けんぼうじゅっすう)が渦巻いています。
歌詞にも「けんぼうじゅっすうー」「けんぼうじゅっすうー」と繰り返し登場。
で、この清和天皇を演じるのが千海 華蘭(ちなみからん)さん。
研究科21年!
やってくれました。声の高さといい、お顔のかわいらしさといい、完璧な幼帝です。
幼い設定なので、セリフ一言一言は長くないのですが、「よいと思う!」「○○してたも」と、聡明さの中にのぞくあどけなさ。
若いけれど、高貴な佇まいの中からにじみ出る思慮深さやカリスマ性。うまいなー。
いつも本公演でも何役もこなし、何をやっても上手い千海華蘭さん。舞台の端にいても「そこに千海華蘭にいてほしい」と思うところで、ちゃんとその場を輝かせる名バイプレイヤー。
最後に一本通った役で露出度も高く。たいへんによかったです。
そして芝居を深めてリアリティを出す名バイプレイヤーの光月るう組長。老獪な藤原良房がゾクゾクする。
他にも、クールな魅力のザ・男役の朝霧 真(あさぎりまこと)くん、最後は悪役の実行犯(鬼の親玉)黒炎役で存在感を発揮しました。
本当に退団が惜しまれます。
宝塚『応天の門』感想:清華 蘭、結愛かれん、花時 舞香、蘭世惠翔、かわいい娘役の大量退団
娘役も大量退団。
芸名通りの美しい清華 蘭(きよからん)ちゃん。和風美人の花時 舞香(はなときまいか)ちゃん。
男役もできる凛々しい美貌の結愛かれん(ゆいかれん)ちゃんは、今回は踊りの名手の大師役。『桜嵐記(おうらんき)』でワタクシ注目。それ以来ずっと楽しみに観ていたのに残念。
そして親の七光りを感じさせず、ひたむきな蘭世惠翔(らんぜけいと)ちゃん。男役から娘役に転向し、その先を見たかった。
芝居の月組を支えるメンバーが抜けちゃって、寂しい限りです。
今回は鬼といい公家といい、そろいの衣装を着た群衆芝居が多い今回の作品ですが、退団者それぞれに見せ場があったのはよかったです。
だから役が減っちゃうんだけど、退団者が幸せそうなのはいいなあ。田渕先生の愛を感じますよ。