こんにちは。らら子です。
『近頃河原の建引(ちかごろかわらのたてひき)』をご紹介します。「建引」とは喧嘩沙汰のこと。
この演目は「猿回しの段」が有名ですが、その前に四条河原での喧嘩に端を発したできごとで、これが題名にもなっているということですね。
実はここだけの話、わたくしずっと『河原の逢引(かわらのあいびき)』だと思っておりました……。
目次
文楽『近頃河原の達引』~ 四条河原の段
(しじょうがわらのだん)あらすじ概要
井筒屋の息子・伝兵衛と遊女・おしゅんは相思相愛のラブラブ。
悪いさむらい横淵官左衛門(よこぶち かんざえもん)はおしゅんに横恋慕(よこれんぼ)しています。
官左衛門は、さらに悪友とつるんで伝兵衛をおどして大金300両を巻き上げるひどさ。
伝兵衛は河原で官左衛門と喧嘩(=建引)になり、伝兵衛は官左衛門を殺してしまいます。
伝兵衛はおたずね者になって行方をくらまし、恋人のおしゅんは泣く泣く実家へ戻されることになります。
文楽『近頃河原の達引』~堀川猿廻しの段(ほりかわさるまさしのだん)前半あらすじ
おしゅんは遊女になるぐらいですから、実家に暮らす母と兄・与兵衛は貧乏をしています。
目の不自由な母は、近所の娘たちに地歌(じうた)を教え、兄の与次郎は猿回しの芸でその日暮らし。
芸が身を助ける不幸せを地で行くような暮らしぶりです。
老母が近所の娘おつるに稽古をつける場面では、その慈愛に満ちた教え方と素直な娘のやりとりが微笑ましくなんともいい風情です。
そして猿回しの仕事を終えて与兵衛も猿たちを優しくねぎらい、母と息子のやり取りも思いやりに満ちています。
こんなに優しさにあふれた家族ですが、娘おしゅんの将来を思えば、厳しくけじめをつけさせねばなりません。
母と兄に「伝兵衛と縁を切る手紙を書け」と言われるおしゅんですが、したがうふりして、恋をつらぬくと書きます。
母と兄は字が読めないのですね。
文楽『近頃河原の達引』~堀川猿廻しの段(ほりかわさるまさしのだん)後半あらすじ
夜になって一家は寝ることにします。
母親は奥にひっこみ、兄とおしゅんは居間に寝ます。
兄はおしゅんに布団をきせかけ、自分のボロボロの着物まで上からかけてやります。兄は煎餅布団にくるまって眠るほど、この一家はお金がないのです。
そこへ伝兵衛が別れを告げにやってきます。灯りを消して外にでるおしゅん。それに気づいた兄は二人を取り違えて伝兵衛を家の中にいれ、おしゅんを外に締め出したり、ドタバタ。
ようやく4人が居間に揃うと、伝兵衛がおしゅんに母や兄と幸せに暮らしてほしいといいます。そこで、おしゅんの有名なクドキ。
「そりゃ聞こえませぬ伝兵衛さん」
聞こえないんじゃなくて、あなたの言い分は聞きません、納得しませんよということですね。
2人は愛を貫き通す気持ちを固めます。
おしゅんは、おたずねものの伝兵衛といっしょにいる限り死ぬしかないのです。
2人の決心が固いことを知った母と兄は、泣きながら二人を送り出します。せめてものはなむけに、めでたい猿回しで2人の前途を祝します。
この先は心中するとわかっていても、どこかに逃げて生き延びてほしいと願う肉親の愛。
このお話、官左衛門のほかに悪い人が出てこないんですよねー。
お金がなくても温かい愛にあふれた結末、にぎやかなお囃子に乗せて無邪気に芸をする猿たちの愛らしさが、哀しみをいっそう際立たせます。