こんにちは。らら子です。
ミュージカル・フォレルスケット『海辺のストルーエンセ』KAATの初日を観てきました。
ポスター画像から、使命感に燃える朴訥した医師の静かな暗い話かと思いきや、印象を裏切る展開でした。作・演出は若手期待の星、指田珠子先生。
朝美絢(あさみじゅん)さんの美しさ、カンパニーの充実ぶり、ワタクシかなり気に入りました!
御園座の彩風咲奈&夢白あやトップコンビ御園座おひろめのボニーアンドクライド宝塚『BONNIE & CLYDE』と、メンバーの振り分けがとてもバランスがいいです。
あらすじと結末は文末をごらんくださいね。
目次
感想『海辺のストルーエンセ』指田珠子先生!
まずは、公演プログラムの朝美絢さん(以下、あーさ)の美しいこと!写真集ですか?!というカットも。
特に裏表紙!耽美で大変なことになってます!
なんかすごいもの見ちゃったって感じです。背景も衣装もきれい!これぞ宝塚なのに、話が深い。宝塚的であり宝塚じゃないような、でもやっぱり宝塚っていう。
音楽もクラシックとおもいきやロック。何もかも思っていたのと違います。お隣の席の方々はやばいやばいを連発していました。
指田先生の意欲と感性がすみずみまでいきわっています。
どこかに過去の宝塚作品を思わせるようなシーンも多く、きっと好きなものをたくさん詰め込んだんだろうなぁ思います。
『ロミオとジュリエット』の舞踏会を思わせるような手の動きの多い群舞とか、CASANOVA』をうっすら思い出させるモテモテのシーンとか。
でもいいの、美しいから。楽しいから。
その分、お稽古大変だったろうなと思います。ワタクシが大劇場公演『蒼穹の昴』の余韻に浸っている間に、すごい密度でお稽古したんでしょうね。
お隣の席の方は、「やばい、やばい」と連発していました。同じく指田先生の『冬霞(ふゆがすみ)の巴里』を超えたかもなあ。
ちなみに余談ですが、KAATって公演に合わせて座席レイアウトを自由に変えられるそうなんです。初日は開演前に係の人が来て座席を増設してました。
会場について自分の席番号の座席がなかったらびっくりしますよね。
感想『海辺のストルーエンセ』第一幕
幕があくと、北欧の海辺。高いところにぽつんと椅子が置かれていて静かに始まります。
何かを暗示するカップルのデュエットダンス。
椅子に座るのは虐待にも近い厳しいしつけをうける王太子時代のフレデリック7世(縣千:以下あがちん)。先代の王(真那春人)は急死して即位します。
恋人たちが登場して、若々しい医師ヨハン・ストルーエンセが頭の古い病院から追い出されたところまで。
再び現れたヨハンは、錬金術師のようなカリスマ医者になっていました。貴族も平民も診察室に押しよせ、老若男女ともにモテモテ。
これがまたキラキラオーラ全開☆彡のチャラ男。総太郎『夢介千両みやげ』風味ですよ。
一方、愛に飢えて育った若き王フレデリック7世(以下:クリスチャン)は、精神的に不安定。イギリスから嫁いできた18歳の王妃とも折り合いがわるく「誰にもなれない自分」から逃げるように毎日酒浸り。
役者の愛人スサンナに入れ込んでいます。
クリスチャンの飲み友達のブラント(諏訪 さき)とランツァウ伯爵(真那 春人:2役)は、王とつるんで羽目を外しすぎて宮廷を首になっています。
この二人がヨハンを王に引きあわせ、王を健康にすることで自分の手柄にしようと考えます。真那春人さんと諏訪さきさんのやりとりが軽妙。
ヨハンは王の歓心を買って侍医になり、自信に溢れた優雅な身のこなしと賢さで宮廷で居場所を作っていきます。
古い因習をこわし新しい世の中を作るために権力に近づくヨハン。この時点で考えるのは民の幸せ。春児@『蒼穹の昴』にも似た高い志……。
ヨハンのおかげでクリスチャンは健康になり、少しずつ王の使命に目覚めていきます。
このあがちん、お衣装が黄色いせいか王様の境遇のせいか『蒼穹の昴』の光緒帝を思い出させます。継母ユリアーネ(愛すみれ)が権力を握り、王といえども頭があがらないのも同じ。
この継母ユリアーネがまたいいんですわ。冷静沈着、どっしりとして宮廷を牛耳っている。いずれは我が子に王位を継がせようと企んでいるものの、私利私欲に走らないタイプ。
一方、ヨハンは王宮になじめない王妃マチルデ(音彩唯:以下はばまい)と出会います。初めは反発し合いながらも、お互い惹かれていき二人は愛し合うようになります。
はばまいちゃんはお顔が超小さいので、あーさとの並びがしっくりきますね。お人形のように美しい二人です。
ヨハンのなかだちで、王と王妃は気が合わないまでも共によき王よき王妃であろうと、歩み寄っていきます。
北欧の鈍色(にびいろ)の空、白夜の夏至、赤く燃える海が効果的に使われています。
ヨハンは古い政治を変えて民衆を救うために、王に政策の助言を始めます。さまざまな改革がうまく回り始めて、万能感に満ちあふれていくヨハン。
あ、これ『ひかりふる路』のサン・ジュストっぽい。
あーさの引き出し総動員ですね!
感想『海辺のストルーエンセ』第二幕
さてさて、いい意味での衝撃の一幕が終わり、お隣の席の方は会の方らしく休憩時間にチケットを買い増ししていました。うらやましい。
第二幕は全員参加でテニス。球を打ち合いながら、それぞれの思惑が語られます。
古い体質の枢密院を排除して政治を変えていこうとするストルーエンセは王に新しい法律をどんどん出させます。
手が痛くなるまで署名をし続ける、けなげな王。ここも光緒帝風味です。
王も飛び越してついに権力を手にしたヨハンは、啓蒙思想にのっとった政策をつぎつぎと行います。
例えて言うならフランス革命のロベスピエールの縮小版といったところ。一幕のあの華やかさは何だったの?というぐらい、とりつかれたように顔つきがかわっていくヨハン。
情を無視し、理想の姿を追い求めてやりすぎたヨハンから人々の心は離れていき、マチルデの仲も王の知るところとなります。あえてそれを問いたださず、袖へはけていく王の後ろ姿が涙を誘います。
あがちん、うまくなったなぁ。
宮廷からも民衆からもそっぽを向かれ、うちひしがれるヨハン。絶望と孤独で涙にくれるみじめな姿がまた素敵。
なんでしょうね、この方の光は。ぼろぼろの泣き顔になっていても、絵になる。
ライトに浮かび上がる死に顔も彫像のように美しい。
今までお調子者に見えたブラントが男気を見せます。諏訪さきちゃん、肩の力が抜けて組を支えるいい役者になりましたね。
王、ブラント、ヨハンのお互いを思いやる友情が切ない。つかの間の花火のような急進的な改革は、旧体制に飲み込まれていきます。
感想『海辺のストルーエンセ』フィナーレ&カーテンコール
重苦しい雰囲気をパッと明るくしてくれるフィナーレナンバー。
やっぱり宝塚はフィナーレがあってよかった。文字通りキラキラです。
男役さんの丈の長いピンクの上着、娘役さんの大胆にスリットの入った黒いドレス。素敵。男役は踊れる人ばかりなので本当に楽しい。
終演後のご挨拶では初日の幕が開いたことへの感謝と「怒涛のお稽古」であったことが明かされました。でしょうねぇ。ご本人たちもよく間に合ったなと思ったそうです。
なにより神奈川県出身の朝美絢さん「ただいま神奈川!」
お遊びはエアー「豆まき」。「ストルーエンセ」という言葉を絡めて舞台から福は内鬼は外千秋楽まで頑張るぞというような掛け声(記憶力)でエアー豆まきを試合ました。
叶ゆうりさんがあーさにいろいろささやいていたので、彼女の発案だったんでしょうかね。
真那春人さんのお誕生日をみんなでお祝いし、真那春人さんは、初日の幕があいてヨハンを始め登場人物たちが爆誕したことをお祝いしてくれ、会場中いい雰囲気でした。
ミュージカル・フォレルスケットのフォレルスケットとは、デンマーク語forelsket。ネットで調べると、意味は“恋に落ちる時の多幸感”とのことです。
朝美絢さんによると、日本語にするにはちょっとむずかしいニュアンスで、ちょっといいことがあった幸せな気持ち、だそうです。
ちょっとどころか幸せあふれる初日でした。お次は気になるキャストおぼえがき。
感想『海辺のストルーエンセ』気になるキャスト
メインキャスト以外では、女官 ホルスタイン伯爵夫人役の妃華ゆきのちゃん。ゆきのちゃんが輪っかのドレスで出てくるだけで、宮廷感が増します。
神学者 グルベア役の叶ゆうりパイセン。黒尽くめの衣装に黒髪。メイク、重々しい動きで、ここがいかにも古臭い堅苦しい場か伝わって来ます。
かと思えば、パーティーで王が発案した鬼ごっこで、本気でにげまどう表情がたまりません。
かわいくて上手で目を引くのは、王妃の侍女 エリザベート・フォン・エイベン役の華純沙那ちゃん。雪組公演『蒼穹の昴』で、市場で遊んでいる子ども役のひとりをいきいき演じていました。
今回は輪っかのドレス姿がみられてうれしい。最初に登場したときは背中のチャックが上がりきっていなくてハラハラしました笑。
一禾 あおくんは、役者 ヘンリックとフリードリヒ2世の2役。おっさんもよし、美丈夫やってよし。これからますます楽しみです。
そしてエキゾチックなお顔立ちの白峰 ゆりさん。はかなげな役が似合う白峰さんですが、今回は役者で王の愛人でもあるスサンナ役。はすっぱな物言いが新鮮です。
もう一役は一瞬だけの登場で王妃カロリーネの曾祖母 ゾフィア・ドロテア(イギリス国王ジョージI世の妃)。
カーテンコールでのお辞儀の美しいこと。ゆきのちゃんと並んで雪組の宝ですね。
感想『海辺のストルーエンセ』あらすじ・結末
18世紀中葉、若き王クリスチャン7世が治めるデンマーク王国。大北方戦争後の中立政策によって、人々が平和な時代を謳歌していた頃。小さな町医者ヨハン・ストルーエンセは、啓蒙思想に傾倒し、保守的な医療現場を改革しようと奮闘していた。新しい考えを広め、いつか大きな世界で活躍したいという野心を抱くヨハンは、その美貌と賢さ、エレガントな立ち振る舞いを武器に、専属医として王達に近づく。
そこで目にしたものは、享楽に耽る王クリスチャン、無能な王を放任し国政を牛耳る宮廷官僚達、我が息子を王位に就かせようとするクリスチャンの継母ユリアーネとその一派、そして異国に慣れず王と不仲の王妃マチルデ。宮廷は「病」に満ちていた。国政を握り、世直しを行うチャンスとばかり、「治療」を開始するヨハンだったが、次第に孤独な王妃に惹かれていく。
果たして2人の、そしてデンマークの向かう先は・・・出典:公式サイト
と、ここまでは公式サイトのあらすじ。
王の絶大なる信頼を得たヨハンは、年老いた宮廷官僚たちを飛び越えて王と自分たちだけで急進的な政治改革を行い始める。
毎日のように法律を発布し、実力主義で役人を登用し、宮廷も民衆も混乱。
王妃マチルデとの不倫も燃え上がるばかり。二人で寝室にいるところをオセロをパロディにいたずらをしかけに来た王に目撃されてしまう。
二人の不倫は宮廷中、民衆も知るスキャンダルとなる。やがてヨハンとマチルデは反逆罪で逮捕されかかる。
二人は、同僚ブラントの助けでその場を逃れ、海辺までやってくる。そこへ王が軍隊を連れてやってくる。
死を覚悟しているヨハンは、私利私欲のためにおろかな王や王妃を利用したと心にもないことを言い始める。王を挑発して決闘をもちかけ、王の剣に刺されて死ぬ。
継母ユリアーネの指図で、ブラントとヨハン(身代わりに死刑囚)は形式的に裁判をして処刑、マチルデは遠く離れた古城に幽閉されることになる。
宮廷は元通りの古い因習に戻り、侍従長は王太子に新しい政治の期待を託す。最後につかのま言葉を交わした王とマチルデは「誰にもなれなかった自分」たちを許し、別れていく。