感想:二月大歌舞伎『義経千本桜』仁左衛門一世一代:『春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)』、『義経千本桜(よしつねせんぼんさくら)』から渡海屋(とかいや)の段・大物浦(だいもつうら)の段:歌舞伎座2022年令和4年:ニザ様片岡仁左衛門(かたおかにざえもん)

こんにちは。らら子です。
歌舞伎座2022年二月大歌舞伎第二部を観てきました。

二部は舞踊『春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)』、『義経千本桜(よしつねせんぼんさくら)』から渡海屋(とかいや)の段と「大物浦(だいもつうら)の段」です。NHK大河

ドラマ『鎌倉殿の13人』を意識してか、源平合戦にゆかりの演目ですね。

『義経千本桜』は「片岡仁左衛門一世一代にて相勤めや申し候」とあります。ニザ様一世一代なら行かねばならぬと早々に行ってまいりました。

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感想二月大歌舞伎『義経千本桜』片岡仁左衛門一世一代とはどういうこと?役しまい?

今回、片岡仁左衛門丈は、『義経千本桜(よしつねせんぼんさくら)』から渡海屋(とかいや)の段と「大物浦(だいもつうら)の段」の主役、平知盛(たいらのとももり)です。

平知盛は平家一門きっての武将。『義経千本桜』では、大きな碇を背負って海に身を投げることから「碇知盛(いかりとももり)」とも言われます。

この平知盛役を一世一代で演じるというが事前に告知されました。

よく「一世一代(いっせいいちだい)の大勝負」などといいますが、歌舞伎のこれは「一世一代(いっせいちだい)」と読みます。これは、本公演をこの役の集大成として「役終い(やくじまい)」してこの先はもう演じませんということです。

喜寿を超えた仁左衛門丈にはもうこの役はふさわしくないと、自ら幕引きをされるということですね。このお役は初役が還暦の頃で本公演が六度目だそうです。

それだけ大きなお役ということでしょうか。

実は、仁左衛門丈は、当たり役の『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』の与兵衛や、鶴屋南北作『絵本合法衢(えほんがっぽうがつじ)』も一世一代として封印しています。

役者に年齢はないといいますが、与兵衛は未熟な若者の役ですし、芸の力だけでは埋められないギャップなのですね。寂しいですが美学を貫かれるということなのでしょう。




感想二月大歌舞伎『春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)』

『義経千本桜』の前に舞踊『春調娘七種(はるのしらべむすめななくさ)』。

幕が開くと、長唄連中が緋毛氈(ひもうせん)にずらりと居並んでいます。上から能舞台風の屋根が下がっています。

せりあがってきたのは、曽我の十郎・五郎と静御前。史実では接点のない3人が七草をテーマに舞い踊るという歌舞伎ならではの設定です。

曽我十郎は中村梅枝、曽我五郎は中村萬太郎のリアル兄弟です。静御前は片岡千之助。

片岡千之助さんは、ふだんのお顔が美形なのでさぞ美しいだろうと期待していましたが、意外とお地味でした。

あれ?お顔立ちが小さいから?静御前は白拍子だし、義経の愛妾なのでもっと色香があっても良いのになーと思いました。

みなさんお若いせいか、静御前と曽我兄弟と幼なじみ三人で踊っているように感じました。
今回お三方とも初役に挑戦とのことですが、梅枝さんの曽我十郎はおっとりとそつがなくきれいに収まっていました。

特にワタクシの目をひいたのは、曽我五郎は中村萬太郎さん。初役といえど『対面』の曽我五郎などの荒事はすでに好評で、さすが堂に入っています。

萬太郎さんといえば、クリっと大きな目とキュッと口角のあがった口元が印象的ですが、この曽我五郎の扮装はまさに五月人形のような完璧なフォルムです。

動きも見得も気持ちがいい。ピンと張った指先に気力がみなぎっています。

NHK大河ドラマ『青天を衝け』(せいてんをつけ)では、母校慶應義塾の創始者の福沢諭吉役も演じていましたし、女形の父・時蔵さん、兄・梅枝さんとも違うジャンルで、輝きを増してくださいと思いました。




感想二月大歌舞伎『義経千本桜(よしつねせんぼんさくら)渡海屋(とかいや)の段

さてお待ちかね。『義経千本桜(よしつねせんぼんさくら)』

幕が開くと舟宿・渡海屋(とかいや)のおもて。

鎌倉方のいばりちらす武士・相模五郎(又五郎)と下っ端の武士・入江丹蔵(隼人)が船宿渡海屋を訪れて、自分たちを先客より先に船に乗せろとごねます。

隼人さんが下っ端にしては美しすぎますね(笑)

船宿の女将である、女房お柳、実は、典侍の局は、孝太郎さん。この方も老けましたね。息子の千之助さんがあれだけ大きいから当たり前か。

もめているところに、仁左衛門丈の、渡海屋銀平実は新中納言知盛登場。一筋縄ではいかないあらあらしい海の男。

あっという間に武士をねじ伏せ、先客を差し置いて舟を出すわけにはいかないと、じゅんじゅんと言って聞かせるところの粋な語り口。

素敵。

その後、力づくでもと切りかかる武士たち二人に対し、自分にも腕に覚えがあると言って余裕しゃくしゃくやっつける動きの鮮やかさ、凄味。カッコイイ。

ま、なぜこんなに余裕があったのかは後でわかるわけですが。

支度のために一度奥の間に銀平が引っ込んだ後、出てきた義経は中村時蔵丈。やんごとなき貴公子です。

銀平が武士を追い払ったことに感謝の意を述べ、銀平の女房の惚気話を聞き、女中に給仕された酒と肴で出立を祝い、一行は出ていきました。

その後、銀平娘お安、実は、安徳帝が手習草紙を手に出てきます。中村梅枝さんのご長男の小川大晴(おがわ ひろはる)君です。

大晴君は令和2(2020)年11月、5歳の時に国立劇場の『毛谷村(けやむら)』の一味斎孫弥三松(いちみさいのまごやそまつ)で初お目見え。

この時も仁左衛門丈、孝太郎さんの舞台だったので、「親子役」にはピッタリですね。

いよいよ仁左衛門丈が亡霊の装束に改めて出てきた後の美しさったら。やはり当代一の人気役者です。ほれぼれします。

ここで実は銀平は知盛、女房は典侍、娘お安は安徳天皇であることが明かされ、所作も恭しいものに変わっていきます。船頭達も実は平家の家来。

憎き源氏に復讐するため、義経を討ちに雄々しく出発していきます。知盛の前後を家来たちが固めて花道を去っていくのですが、その時に家来たちが手にした松明を上下に揺らします。

これが人魂(ひとだま)を演出しているとか。ちょっとエグザイルのチューチュートレイン的な振り。




感想二月大歌舞伎『義経千本桜(よしつねせんぼんさくら)』から大物浦(だいもつうら)の段(前半 渡海屋奥座敷)

幕が上がると奥座敷。

安徳天皇を中心に典侍や女官たちが勝ちの知らせを待ちかねていますが、そこへ相模五郎や義経が計画をすべてお見通しで知盛は返り討ちにあっていると知らせにきます。

窓をあけて沖を見ると、知盛が言った通り船の灯りが一斉に落ち、負けたことが分かります。
入江丹蔵も傷つきながら戻ってきて、追っての源氏の兵と戦いつつ戦況を報告します。

もはやこれまでと、入江丹蔵は源氏の兵を巻き添えに海に飛び込みました。イイ男が弱っているというのはゾクゾクしますね。

隼人さんたっぷりと拝見しました。

安徳天皇には事情が吞み込めませんが、海の底には都がありみんなでそこで幸せに暮らすと説明され、納得。辞世の句を詠みます。この賢さ、健気さが観客の涙を誘います。

女官たちは案内のために一足さきに海の底へ飛び込み、いよいよ安徳天皇と典侍も……という時に、源氏の武士たちが踏み込み、なすすべもなく二人はとらわれてしまいます。

こういう「なすすべもなく」諦念した感じ、孝太郎さんうまいんですよねー。




感想二月大歌舞伎『義経千本桜(よしつねせんぼんさくら)』から大物浦(だいもつうら)の段(中盤)

敗走中の知盛が花道から登場。出立の時に身に着けていた白一色の装束も血塗られ、身体には矢が数本刺さっています。顔には水色の隈取がされて死相にも思えます。

喉の渇きをおぼえる知盛。やがて本舞台に向かうと体に刺さっていつ矢を抜き、せめてもの喉の癒しにと矢に付いた自らの血をなめます。

この時に口の中も真っ赤に塗られていますが。絵になります。このしぐさでいかに凄惨な戦いであるかがしれますね。

ひとり戦ううちに、義経が安徳天皇と典侍を伴って登場。

こうなったら負けを認めて仏門に入れと勧めます。その時に弁慶(左團次)が数珠を知盛の首にかけますが、知盛は拒否。

この左團次さんの弁慶は、「僧」である部分が「兵」より勝っているのでしょうか。おだやかなおとなしい弁慶です。

義経は安徳天皇の命は守って西国へ落ちるので、戦いを放棄しろと知盛にいいますが、それも拒否。安徳天皇は知盛に感謝の気持ちを述べてなだめます。

しおしおとうつむく典侍と事情はのみこめないながら臣下を労わる安徳天皇。しみます。

安徳天皇を義経に託す気持ちの典侍は、自分の存在が邪魔になってはいけないと自害します。

源氏への復讐のためとはいいながら、2年間夫婦として暮らした情のある典侍。死を目の当たりにした知盛の気持ちは揺れます。

我が子として育てた幼い安徳天皇の命も失いたくない知盛も、義経の申し出を受け入れます。




感想二月大歌舞伎『義経千本桜(よしつねせんぼんさくら)』から大物浦(だいもつうら)の段(終盤)

安徳天皇を義経に託してホッとした知盛。ゆっくりと笑顔になります。身体の奥から湧き出す笑顔といった様子で、「心よい」と満足げに呟きます。

この笑顔がねえぇ、本当に素敵なんですよ。仁左衛門さんらしい優しい笑顔。

銀平としても知盛としても、ずっと復讐のことだけを考えて、源氏か平家か、殺すか死ぬかと気を張り詰めていたわけです。

ここで最後の最後にそれを手放すことで、幼子の安徳天皇の未来を義経に託す。

ちょっと考え過ぎかもしれませんが、今回一世一代でお役を手放して後進に託す、仁左衛門丈の心情にも通じるかなと思いました。

いよいよ別れの時が来ました。安徳天皇を預かった義経一行が見守る中、知盛は背後の大岩を、よろよろと登っていきます。

大岩の上には綱につながった大きな碇が。綱を身体に巻き付けると、大きな碇はいかにも重そうです。碇の下に肩を差し入れ、碇を両手でしっかりと握ると頭上高く上げます。

碇を海に投げ入れると、やがて綱を巻き付けた知盛を海中に引きずり込むということです。今がその時、仁左衛門丈がゆっくりと後ろ向きにたおれます。

「あ、77歳!大丈夫?」と心で叫んでしまいます。やはりちょっと心配。

拍手が鳴りやみません。




感想二月大歌舞伎『義経千本桜(よしつねせんぼんさくら)』から大物浦(だいもつうら)の段(幕切れ)

ここで定式幕が閉まり、花道だけになります。義経は安徳天皇を恭しく抱いて花道を引っ込みます。ここはついつい時蔵丈(祖父)と大晴君(孫)として見てしまいますね。

時蔵丈もお孫ちゃんとの共演、感無量だったのではないでしょうか。

最後に万感胸に迫るといった風情で弁慶が引っ込みます。ここは別に急いでいないので六方を踏むことなくしずしずと去っていきました。

戦い済んで日が暮れて、静寂な舞台が残りました。

この千本桜には片岡仁左衛門丈、息子の片岡孝太郎さん、中村時蔵丈とお孫さんの小川大晴さんが出演。

舞踊『春調娘七種』には中村時蔵丈の息子の梅枝さんと萬太郎さんが出演。

つまり、二月歌舞伎座二部は松島屋三代と萬屋三代が揃ってるんですね。楽屋が楽しそう。親、子、孫とそれぞれのお家の芸がしっかり受け継がれていくのですね。




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