感想:文楽『国性爺合戦』令和5年2月公演第2部:東京国立劇場(2023年)

こんにちは。らら子です。

2023年国立劇場文楽第二部『国性爺合戦(こくせんやかっせん)』の感想です。国立劇場さよなら公演中で今回は近松名作集の1つ。いよいよカウントダウンですね。それまで劇場と演目の邂逅を楽しんでいきたいと思います。




感想:文楽『国性爺合戦』千里が竹虎狩りの段

本公演で上演されたのは以下の段。

千里が竹虎狩りの段
楼門の段
甘輝館の段
紅流しより獅子が城の段

『千里が竹虎狩りの段』は初めて観ました。「口」は床が空のまま幕があがり、太夫と三味線は御簾内に。碩太夫さんと燕二郎さんの若々しいコンビです。

「奥」からは着ぐるみの虎が大活躍。ところせましと駆け回り、床にちょっかいを出して三輪太夫さんに頭を叩かれたり、ときどき客席に向かって身を乗り出して威嚇したり。

こ、この慣れた動き!中の人は多分、動物専科のあの方(桐竹勘介)さんですね。

近松がいた頃は、虎は日本にいなかったので、資料は絵姿と毛皮のみ。動きはやはり猫を参考にしてたんでしょうかね。

和藤内(わとうない)が虎を退治して強さを見せつけると、虎退治のためにその場に居合わせた中国側の勢子(人足)も家来になります。

和藤内の母(一官妻)も手伝って、家来たちをちょんまげ姿に変えて和名をつけていきます。

この段、三味線は清友さん、ツレが錦吾さん、清方さん。

渋みと若さ、いい感じに世代間で継承されているとお見受けしました。




感想:文楽『国性爺合戦』人形 立役

さて、初役で和藤内を演じるのは吉田玉佳さん。このところ、大きな役がついてきてうれしく思っていたところに、いよいよ重量級の人形の主遣いです。

しかもWキャストではなく初日から千秋楽まで一人です。

ワタクシが拝見したのは2日目なので、ちょっと緊張の色が見えるようにも思えましたが、これから終盤に向けて本領を発揮なさるでしょう。

舞台を所狭しとかけめぐる勇壮な姿ももちろん良かったですが、母を思う心、母と姉の死で涙をぐっとこらえる和藤内の表情も心を揺さぶられました。

和藤内の父、老一官を遣うのは吉田文司さん。出番は少ないけれど印象的な登場人物です。老いたりといえども気概のある男ぶり。

主君を怒らせて追放されたときに、まだ幼かった娘が甘輝(かんき)将軍の妻になっていると聞きつけ、コレ幸いと館を訪ねていくが決してしたでにはでないのですね。

五常軍甘輝(かんき)将軍はWキャストで吉田玉志さんでした。折り目正しく男らしい将軍。感情表現を抑えた手や首の動きが玉志さんらしいと感じました。




感想:文楽『国性爺合戦』人形 女形

和藤内の母、一官妻は吉田和生さん。錦祥女(きんしょうじょ)は吉田簑二郎さん。これはもう期待のたかまる配役です。上品な立ち居振る舞い、そして激しさを秘めた決意。

錦祥女は先年引退なさった吉田簑助さまが最後の公演で遣ったお役。一番弟子の吉田簑二郎さんにはひとかたならぬ思い入れがあるのではとお見受けしました。

陳腐な表現ですが、こんなにも人形が表情豊かになるものかと改めて感じ入ります。

一官の現在の妻と先妻の娘という、義理の関係で初めて出会った二人。それぞれの夫の使命を遂げさせたいと思いつつ、お互いを気遣いにかばい合う姿が涙を誘います。

錦祥女は、一官が中国に残してきた娘。

たまたま甘輝将軍の妻になっているという理由で、父は甘輝将軍に味方になってもらいたいと訪ねてきます。

いうなれば、父やその家族に利用されているのに父との再会を喜び、継母に孝行をつくそうという気持ちがいじらしい。

そしてじっと物思いに耽る姿の美しいこと。

一官の妻は、夫の忠義を超えたところで錦祥女を愛しみます。妻の錦祥女を殺した上で和藤内に味方するという甘輝将軍とから錦祥女をかばい、死を受け入れようとする錦祥女を思いとどまらせようとします。

高手小手にしばられた姿で、体当たりでときに袖を噛んで押し留める必死の形相(に見える)。思えば人形ならではの荒唐無稽さなのに、目が離せません。

舞台中央に美しい合戦の衣装に身をつつんだ和藤内と甘輝将軍。

そして舞台しもてには息も絶え絶えの二人。一官妻は自分も瀕死でありながら細やかに錦祥女に声をかけ続ける様子から目が離せませんでした。




感想:文楽『国性爺合戦』太夫・三味線

『楼門の段』は「前」が小住太夫さんと清馗さん。久しぶりに拝見した小住太夫さんはすっかり風格がましていました。お声もよくなっているような??清馗さんは淡々と穏やかに。

「奥」は、待ってました!の呂勢太夫さんと清治さん。

盆が回って驚いたのは、肩衣の華やかさ!呂勢太夫さんの肩衣コレクションは有名ですが、清治師匠に「これでお願いします」って手渡すのかなーとか想像をたくましくしてしまいます。

見台も綺麗でした。房も2色。肩衣も見台も春めいた感じで大変けっこう。

長丁場のせいか、途中で持ち替え用の三味線がそっと出てきたのには驚きました。最後まで一丁で通されましたが、途中でしきりと調弦していらしたのもちょっとハラハラしました。

呂勢太夫さんを楽しみにしていたのに、途中でちょっと眠くなってしまいました。いい波が出ていたのでしょうか。

『甘輝館の段』「切」が切り場がたり錣太夫さんと宗助さん。ベテラン同士。絞り出すような染み入るような語りにしみじみ聞き入りました。技巧に走らずまっすぐ伝わってくる心地よさ。

『紅流しより獅子が城の段』「切」はかならずしも最後ではないんですね。織太夫さん藤蔵さん。今までがすべて吹き飛ぶような語りと三味線。

今日も織さんは気分良く自分の世界で語ってました。三味線は自分が弾いていないときも合いの手をいれるように唸ったり、弦を切ったり大騒ぎ。

太夫は人形に合わせる必要はないとは言われますが、床と舞台とにかなり隔てがあるように感じました。

床のお二人は息ぴったりのようで、これがいいという人も多いのかと思いますが。

甘輝将軍が登場するときに、御簾内でメリヤス隊が特別な調べを奏でるのが面白かったです。これで大物感とか異国の将軍という印象が強くなるのですね。

異文化に触れた腰元たちが日本や一官の妻についていろいろと噂話をするのも、異文化理解という点からも興味深かったです。




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