こんにちは。らら子です。
2022年国立劇場の令和4年3月歌舞伎公演『近江源氏先陣館-盛綱陣屋-』を観てきました。
もう歴史の瞬間に立ち会った気分です。なのにコロナ禍のせいかガラガラ。みなさーん!必見ですよー。
(国立劇場)令和4年3月歌舞伎公演『近江源氏先陣館-盛綱陣屋-』
(コレハミルゾ) pic.twitter.com/dIUsF57QJX
— ryugo hayano (@hayano) February 4, 2022
(ryugo hayano@hayanoさんアップありがとうございます)
目次
国立劇場『盛綱陣屋』尾上菊之助&丑之助のW主演と評判!
主役の佐々木盛綱は初役で尾上菊之助さん。佐々木盛綱の倅・小四郎が尾上丑之助さん。NHK朝ドラでモモケンとしても人気の菊之助さんはまさに人気も実力もぴかイチ。
息子の丑之助さんも天才子役ぶりを見せつけ、W主演と呼び声が高い演目です。
丑之助さんはほんの数か月前まで、いかにも子役といった感じの声の張り上げ方でしたが、今回の小四郎は違いました。声の調子だけでなくふとした表情や間合いもお見事。
尾上丑之助は、もはや可愛いだけではない立派な歌舞伎役者ですね。
今回の演目『盛綱陣屋』は、初代中村吉右衛門が完成させたといいます。
菊之助さんは、先ごろ亡くなった名優・二代目中村吉右衛門の娘婿。菊之助さんは、二代目からこの播磨屋の型を、すばらしく受け継いでいました。
菊之助さんはいつまでも美青年のような気がしていましたが、結婚し、夫となり、父となり、すっかり貫禄のある大人になりましたよね。
歌舞伎の後継者としても、いろいろと深く考えるところがあるのねと、ワタクシも感じ入りました。
菊之助さんが吉右衛門の型を受け継ぎ、その息子の丑之助さんがさらに型を受け継いで行きます。
丑之助さんは吉右衛門さんの血をひいた孫ですから、丑之助さんがいるというのは歌舞伎ファンにとってもありがたいことです。
国立劇場『盛綱陣屋』解説は中村萬太郎(なかむらまんたろう)&菊之助メッセージ
今回は「歌舞伎名作入門」と銘打っていて、初めに解説があります。NHK大河ドラマ『真田丸』の主題曲が流れると、前方スクリーンに「大坂の陣」の説明が流れます。
この『近江源氏先陣館 盛綱陣屋』の主人公である佐々木盛綱が、実は真田信繁(幸村)の兄 真田信幸をモデルにしているが、鎌倉時代に人物を映しているという説明ですね。
スライドショーで相関図の説明、歌舞伎の舞台にオーケストラ洋楽、そして解説の人が登場、と、いろいろ工夫されていますね。
解説を担当するのは、信楽太郎役でもある中村萬太郎(なかむらまんたろう)さんです。紋付きではなく明るい色あいの肩衣と袴姿です。
萬太郎さんは、現代のわれわれからすると心情的に理解できない部分もあるが、といいつつはっきりした口調でわかりやすく説明してくれます。はつらつとした動きが本当にいいですね。
ちなみにこの一幕目はこの解説15分で休憩25分でした。中村萬太郎さんが説明してくれた内容は次の項目で。
解説を終えて中村萬太郎さんが「大急ぎで着替えますので」と、引っ込むと、「恕」という筆文字がスクリーンに映し出されます。
流れるような柔らかい筆跡ですが、凛とした決心も感じさせます。揮ごうは武田早雲さんです。こういうのも新しい試みですね。
「恕(じょ)」という言葉について、人を許すこと、人の立場や心情を思いやる気持ちだという菊之助さんのメッセージが流れます。
盛綱陣屋に流れる親子の情を感じ取ってほしいという、菊之助さんの話し方がとてもあたたかくて、染み入ってくるようでした。
国立劇場『盛綱陣屋』「入門“盛綱陣屋”(もりつなじんや)をたのしむ」みどころあらすじ
さて、初めは中村萬太郎さんが説明してくれた『盛綱陣屋』の背景と見どころです。ご存知の方は飛ばしてくださいね。
「大阪の陣」では親子や兄弟でありながら敵味方に分かれて戦った武将たちがいる。その中の一組が真田信幸(兄)と真田信繁(幸村)弟の兄弟である。
豊臣方についた真田信繁は戦死するが、人気が高く、大坂の陣が終わったあとも生きていると信じる人々によって物語がつくられた。
『近江源氏先陣館(おうみげんじせんじんやかた)』もそのひとつだが、江戸幕府をはばかって時を鎌倉時代に移して、佐々木盛綱・高綱兄弟になぞらえてある。
盛綱は鎌倉方(源氏)、高綱は京方(平家)についている。それぞれの息子たちもこの戦いで初陣を飾り、盛綱の息子小三郎はなんと高綱の息子小四郎を生け捕りにする大手柄。
時の執権北条時政は、高綱をこちらに味方に引き入れたいので、小四郎を人質としておけと盛綱に命じている。
盛綱は高綱が子の小四郎が心配で存分に戦えないのではと思い悩んでいる。盛綱は甥でもある小四郎に切腹をさせて高綱の気がかりを取り除いてやろうと思いつく。
盛綱・高綱の兄弟の母の微妙は盛綱陣屋に滞在している。盛綱に頼まれた母は孫の小四郎に切腹するように仕向けますが、小四郎は父に会うまでは死ねないと聞きいれない。
そこへ小四郎の母の篝火(かがりび)が男装して盛綱陣屋にやってきて再会。小四郎はひとまず奥の座敷に引っ込む。
そこへ首桶に入れられた高綱の首が運び込まれてくる。確かめようとふと盛綱がふたを開けかけた瞬間に小四郎が座敷から飛び出し、「やあ、父様、悔しかろう」と腹に刀を突きさした!
偽の首を見て小四郎は腹を切ったのか??じゃじゃーん!
国立劇場『盛綱陣屋』感想:菊之助が尊い!吉右衛門にそっくり!播磨屋が乗り移った?!
幕があくと、菊之助さんの盛綱が陣屋で思案顔。ほれぼれするほど美しいですね。
この前NHKの落語の番組で、菊之助さんと対談した林家正蔵さん。菊之助さんをしみじみ見て「若旦那、やっぱりきれいだわ」と思わず口走っていましたが、納得します。
姿かたちだけでなくもちろん所作も美しい。この人のなかには音羽屋の代々の菊五郎から伝わる音羽屋の型も、坂東玉三郎さんから受け継いだ藤娘などの女形もはいってるんですよね。
今回の『盛綱陣屋』は播磨屋の型を受け継いだという先入観もあるのでしょうが、菊之助さんは、ときどきはっとするほど二代目・吉右衛門さんに似ていました。
まず声が似ています。そして腹芸でゆっくりと笑うところなど、そこに吉右衛門さんがいる!と思うこともたびたび。
角度によってはお顔もそっくりになります。もしかしたら播磨屋が乗り移っているのかもと思い、ゾクゾクしました。
ただコピーするのではなく、菊之助さんが幼いころから吉右衛門さんの舞台を見ていて、さらに岳父の芸を受け継ぐという決意のもとに台本や映像も見て、研究して練り上げたのでしょう。
菊之助さんは、歌舞伎界のすべての血筋を受け継いだようなお方ですが、お稽古にお稽古をかさねているんだなと思います。
今よく言われている「尊い」というのがふさわしい方ですね。伝統の力も感じました。
国立劇場『盛綱陣屋』感想:丑之助さんの小四郎が天才すぎるしかわいいすぎる
今回の『盛綱陣屋』は、菊之助さんが播磨屋の型を演じるだけでなく、小四郎役を演じる尾上丑之助さんにも注目が集まっています。
いくら初陣とはいえ、実際はあんな小さな子どもが戦うのもおかしな話ですが、それだけにいたいけさんに涙をさそいますね。そして五月人形のようにかわいい。
祖母・微妙に白装束と腹切り刀を渡されて、なぜ紋がない、腹切り刀でもあるまいし……といぶかしく思ってからの、はっと祖母の意図を悟った時の緊張感。
絶妙な間合いでした。
自分の役目を果たしてから、祖母・母・伯母に囲まれ、死に至るまでの息も絶え絶えの演技も真に迫っています。
武士らしくありながら、祖母に「自分は卑怯者ではなかった」という子どもらしいあどけなさ。
盛綱は、ほめてやれ、ほめてやれ、あっぱれじゃと声を絞り出します。その時の情愛が泣ける。
虫の息で「おじさま」、「おばさま」と、順々に声をかけ、母に会えたが父に会えない切なさを嘆く、そのけなげさに、ワタクシらら子も涙がとまりません。
敵味方に分かれる前は、親類同士仲良く暮らしていただろうになぜこんなことに、と全オトナが泣く場面です。
国立劇場『盛綱陣屋』感想:子役が大活躍!歌舞伎の未来は明るい!
盛綱陣屋は子役が二人出ます。今回、盛綱の息子の小三郎を演じたのは、中村梅枝の息子、小川大晴(おがわひろはる)さん。
2022年2月には片岡仁左衛門さんの一世一代の『義経千本桜 渡海屋・大物浦』で、銀平娘お安実は安徳帝 を演じていました。売れっ子さんですね。
萬屋さんは、中村梅枝さん長男の小川大晴さん、中村歌昇さん長男の小川綜真(そうま)さん、中村獅童さん長男の小川陽喜(はるき)さんがいます。
一方、音羽屋さんは尾上丑之助さんの他に、寺島しのぶさんの長男の寺嶋眞秀(てらしままほろ)さんがいます。
ところで、小四郎役は、令和元年(2019)年にや国立劇場で子役の松本幸一郎さんが演じたときも話題になりました。
【感想】「近江源氏先陣館―盛綱陣屋―」「蝙蝠の安さん」令和元年12月歌舞伎公演
松本幸一郎さんは、歌舞伎のおうちの子ではなく一般人のご家庭の出身ですが、めざましい活躍ぶりです。
梨園の御曹司も一般家庭のお子さんの、将来の歌舞伎界をしょって立つ貴重な人材。これからもお互い切磋琢磨して実力を磨いていってほしいですね!
国立劇場『盛綱陣屋』感想:中村梅枝、莟玉、上村吉弥、:女たちの物語に泣ける
ここで主な音羽屋以外の方々も見ていきましょう。
公式サイトによると全体の配役はこの通り。
佐々木盛綱 尾 上 菊之助
高綱妻篝火 中 村 梅 枝
信楽太郎 中 村 萬太郎
伊吹藤太 中 村 種之助
盛綱妻早瀬 中 村 莟 玉
高綱一子小四郎 尾 上 丑之助
盛綱一子小三郎 小 川 大 晴
古郡新左衛門 嵐 橘三郎
盛綱母微妙 上 村 吉 弥
北條時政 片 岡 亀 蔵
和田兵衛秀盛 中 村 又五郎出典:公式サイト
今回の高綱一子小四郎の母の篝火役は中村梅枝さん。中村梅枝さんの息子の小川大晴さんは小三郎なので、尾上菊之助さんちちょうど入れ替わっている形ですね。
なので、見ている側は梅枝さんがちょっと小三郎のほうを見ていたりすると、息子くんが心配なのかなと思ってしまいます。もちろん役として小三郎の様子をうかがっているのですが笑い。
登場シーンは男のようななりをして盛綱陣屋に現れますが、小四郎に対面してからは母性が溢れ出ます。
盛綱妻早瀬は中村莟玉(なかむら かんぎょく)さん。初々しくもてきぱきとした若妻ぶりです。
この篝火と早瀬の二人は武家の妻のたしなみとして武芸にも優れている様子。
篝火が人質にとられている小四郎を案じる和歌を矢文で打ち込むと、早瀬もさらさらと和歌を書き付けて篝火のいる付近に矢文を打ち込みます。
その意味は、心配無用いつかは会えるとの意味。この心意気がかっこいいー。
源平だ主君だ忠義だと男たちが騒いでいる裏で女達の物語も進んでいきます。上村吉弥さん演じる祖母の微妙も、年長者としてのかんろくをもちつつ、孫を死なせたくない気持ちが伝わってきます。
縁あって義理の姉妹となった二人と、その姑の微妙。ともに、夫を支え息子を愛する女たちの凛とした物語が息づいています。
ワタクシらら子は、盛綱陣屋のこの女の物語も大好きなのです。
他にも、今回は脇役もしぶい実力派ぞろいでした。又五郎さんの和田兵衛秀盛は、錦絵から抜け出したよう。亀蔵さんの時政は大胆不敵でまさに大もの。
そしてらら子の好きな兜台(兜をかぶって時政の脇に控える人)は今回もイケメンでした!
見なきゃ損ですよ!