こんにちは。らら子です。
花組『アルカンシェル~パリに架かる虹~作・演出/小池 修一郎』の感想です。
ナチス占領下のパリの劇場とレジスタンス運動を描いたオリジナルの一本物です。少女マンガの世界から抜け出したような柚香光さんと星風まどかさん。ラブラブなトップコンビは退団公演でさらに光り輝いていました。
目次
花組アルカンシェル感想:アルカンシェルの意味は?
アルカンシェル(Arc en ciel)は、 フランス語で空にかかるアーチ、つまり虹。これに冠詞leがつくと、バンドのラルクアンシエルになるわけですね。
本作は、ダンス上手のトップスターの退団公演なのにショーなしの一本物です。しかもナチスの占領下のパリって深刻で暗そうじゃないですか。
どうするのかなーと思いましたが、劇場を舞台にすることで、クラシック、ダンスパフォーマンス、ジャズ、ラテンを散りばめてレビュー不足を回避しました。
華やかなレビューシーンから始まって、全編、歌と踊りがたっぷり入ったエンタテイメント性の高い作品です。
ダンスだけでなくピアノも上手な柚香光さん。星風まどかさん演じるカトリーヌと見つめ合いながら歌を伴奏したり、ジャズをひとくさり演奏するシーンもあります。
たぶん、宝塚歌劇をはじめて見た人は、腰を抜かす美しさですね。
二番手の永久輝せあさん、ナチスの制服姿もカッコイイし、私服のジャケット姿もキュート。狂言回し役の三番手の聖乃あすかさんは、言わずもがなの美しさ。
わかりやすく耳に残りやすい主題歌で盛り上げ、ラストにこれでもかとババーン!ババーン!と出てくる虹がありがたくて「終わりよければすべてよし」という言葉が浮かんできました。
トップコンビの退団者もそれぞれ目立つ出番があり、小池先生の愛を感じました(^^)
花組アルカンシェル感想:「たゆたえども沈まず」の意味は?主題歌が素敵
さてさて、お話の設定はこんな感じ。
ナチス・ドイツ占領下のパリ。レビュー劇場「アルカンシェル」では、ドイツ軍の進駐目前にユダヤ系の人々が亡命、残された人気ダンサーのマルセルが、劇場を託される。看板歌手のカトリーヌと意見を対立させながらも、一座の命運をかけてドイツ軍検閲官のフリードリッヒと渡り合い、レビューの灯を護ろうとするマルセルは、密かにパリの街を取り戻すためのレジスタンス運動に加わっていく。
劇中何度も出てくる「たゆたえども沈まず(Fluctuat nec mergitur)」というパリの標語のラテン語。
不安な状況下でも、流れに逆らわず身を任せて、決して沈まないという考え方です。
今も辛い思いをしている人たちにも届きやすいのではと思いました。
「たゆたえども沈まず」がモチーフとなった主題歌もいい曲で、劇場をあとにしながら口ずさんでしまうほど耳に残ります。
ややお声に難がある柚香光さんですが、今回は音域にも合っていて柚香さんも歌いやすかったのでしょう。熱い思いが、心に響いていいなあと思いました。
セーヌ川を描いた旗とともに舞台に掲げられていますが、これがナチスの旗に置き換えられてしまうのも象徴的でした。
花組アルカンシェル感想:イケコにしては悪くない?ネバーセイグッバイを主出す
海外ミュージカルを持ってくるのは得意でも、オリジナル作品は意外とトンデモ作品も多い、小池先生。
ネットでも劇場でも「イケコ(小池先生の愛称)にしては悪くない」という評判。座付きの演出家で「悪くない」と許されるってどうよと思いますが、そこが宝塚ですね。
ベテランならではの手堅い演出で、ワタクシらら子も思ったより楽しめました。
しかし、なんか既視感があるんですよね。
それは和央ようか&花總まりというゴールデンコンビの退団作品、スペインを舞台にしたレジスタンスもの『ネバーセイグッバイ』です。
カメラマンと女優が最悪の出会いをして、やがて愛し合い、レジスタンスに身を投じていく。
数十年後に、孫娘が狂言回しとして祖父母が過ごした土地を訪ねて、その当時を語っていく話でした。
はい、同じですね。
それよりもなによりも、込み入った事情は全部、狂言回しの聖乃あすかさんに丸投げって、手抜き感がすごいですよね。
かっこよくてきれいだからなんとなく許せちゃうけど、なんでこの人が舞台に登場して登場人物の誰とも交わらずに延々と話しているのかが謎。
レジスタンスの主要メンバーは、、劇場のダンサーや歌手って大丈夫なんでしょうか。
主人公はろくに軍事訓練もしないのにレジスタンスのリーダー的存在になってるし。
全体的に人物描写は浅く、それをジェンヌさんが一生懸命掘り下げたのもわかる。
救出大作戦とか脱出劇とか、え?それでいいの?あとに残った人は大丈夫なの??というツッコミどころも多いのですが、ラストはすべて丸く収まって大団円。
トップスターは退団公演の演出家を指名できると聞いたことがありますが、これもご指名だったんでしょうか。
花組アルカンシェル感想:恋に落ちる理由が吊り橋効果?
マルセル(柚香光)はもともとモダンダンスを得意とするダンサー。
伝統的なアルカンシェルの定番演目も、自分の表現に改変して怒られています。
このシーン、柚香さんはピエロの仮面をつけて登場するのですが、仮面をつけて踊っていても柚香光さんだとわかります。
やがてナチスがやってきて、ヒットラーの好むウインナワルツのみ許可するというドイツ将校(輝月ゆうま)。
エンタメ大好きなドイツ軍検閲官のフリードリッヒ(永久輝せあ)の提案で、「開放」を願うドイツ兵相手にジャズアレンジのショーを演奏することに。
ドイツ将校が来る日はウィンナワルツをやって、下士官が来る日はジャズを上演するって、それをバレないようにフリードリヒがうまくやるって。
そんなの無理でしょー。人の口に戸は立てられない。
一方、歌姫のカトリーヌ(星風まどか)は歌声にほれ込んだナチス将校に口説かれます。
一座とともにパーティーに招かれ先で、一室に連れ込まれたカトリーヌを救い出し、外出禁止時刻が迫るとマルセルはカトリーヌを自宅に招きいれます。
仕事相手に恋愛感情は持たないと言い合う二人ですが、よもやま話をするうち「似た者同士かも?」それだけであっさり恋に落ちます。
安易な吊り橋効果過ぎませんかね。でもいいの、美しいし幸せそうだし。
クラシック版とジャズ版と2本のショーを上演することになり、若手歌手のアネット(星空美咲)も夜遅くまで練習。帰りがおそくなると不良ナチスに絡まれる。
たまたま通りかかったフリードリッヒは、外出禁止時刻がせまるアネットを自分のホテルに保護して、フォーリンラブ。
外出禁止さまさまですね。
フリードリッヒは長いからと、「フリッツ」と呼ぶアネット。実は次期トップコンビの二人、部屋で話し込んで去り際にキス。ここでも外出禁止令が結びつけた吊り橋効果です。
「パリジャンはもっとキスがうまいんだろうね」って、うーむ何ですか?そのセリフ。
花組アルカンシェル感想:設定にリアルを与えるまゆぽん&花組のおじさんたち
ドイツ将校が来る日には俺が知らせると安請け合いするフリードリヒの詰めはどうみても甘く、ジャズショーの上演はドイツ将校側にバレる。
そりゃバレるでしょうよ。人の口に戸は立てられぬ。
そのことで劇場の人々は辛酸をなめる展開になり、物語は盛り上がっていくのですが、先ほど申し上げた通り、「え?それでいいの?」という軽い方法でどんどん解決されていきます。
でも、物語にリアリティというか重みを与えてくれるのが、ナチス将校役の人たち。
特に、コンラート・バルツァー役の輝月ゆうまさん(まゆぽん)の怪演。。身体の大きさと言い、迫力と言い、とにかく強い。くっきりと囲み目のアイラインを引いたメイクもいっちゃってる。
バルツァーは横暴なだけでなく、カトリーヌに睡眠薬を仕込んだり部屋に連れ込んだり、非道な奴なんだけど、なぜか彼の美学を感じる役作りになっています。
輝月ゆうまさんは柚香光さんと同じ95期。同期の退団公演に花を添える、以上の存在感です。
オットー・フォン・シュレンドルフ役の羽立光来さん(94期)に、デートリッヒ・フォン・コルティッツ役の峰果とわさん(98期)。
この二人が並ぶと、もう文句なしの重鎮感。よくぞ立派なおじさんに育ってくれました。
もはや花組の宝ですね。
峰果とわさんは、宝塚大劇場では休演だったので復帰して良かったです。代役をつとめた泉まいらさん(100期)さんお疲れ様でした。
花組アルカンシェル感想:退団者のみなさんとロケット
トップコンビ以外の退団者は4名。
94期 舞月 なぎさ(ジェラール )
99期 帆純 まひろ(ロベール)
104期 愛蘭 みこ(花売り娘) と美里玲菜
花組を支えつづけた94期もついに減っていきます(涙)。舞月なぎささん演じるジェラールはユダヤ系なので、最初に亡命。
最後に連合軍側のアメリカ兵としてパリにやってきて、アルカンシェルの人々と再会します。
退団を連想させるセリフで舞台をはけていき、客席から拍手を浴びていました。
帆純まひろさん演じるロベールは、得意の曲芸を見せてくれます。お顔もきれいだし、まだまだこれからスター路線で活躍すると思っていたのに、惜しまれます。
104期の愛蘭みこ(花売り娘) と美里玲菜さん。まだ新人公演学年での退団です。ちょっと早すぎますね。愛蘭みこさんは鴛鴦歌合戦のお嬢様役がとても良くて、これからも期待していたので残念。
美里玲菜さんは、お姉さんが星組の元トップ娘役の綺咲愛里さん。お顔もよく似ていて、姉妹で比較されることもあり、大変だったと思います。
みなさんどうぞお幸せに。
ロケットはなかなか難しいフォーメーションで感心。センターで踊る夏希真斗(なつきまなと)さんが野太い掛け声と客席へのアピールで目立ちまくり。
夏希真斗さんは新人公演では輝月ゆうまさん演じるコンラート・バルツァー役。これからの化け具合が楽しみです。